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大食らい女児――MAYURI――

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突然、前の席に座っていた男子が、落とした消ゴムを拾おうと椅子を引いて立ち上がったのである。

その時引いた椅子の背もたれが酒井の机にぶつかり、あろうことか机が押されて酒井の腹に深く食い込んでしまった。

瞬間、酒井は大声を上げて立ち上がった。

後ろの席に座っていた男子が、立ち上がった酒井のズボンを見て言った。

「おい、酒井。お前、ズボンぬれてるぞ」

酒井、人生最大の失態であった。


5


放課後、担任の佐藤先生は酒井を職員室に呼び出してこう言った。

「酒井さん、あなたどういうつもりですか?」

「何がですか?」

酒井はとぼけてみせた。

「“何がですか”じゃありません。トイレに行きたいのなら、我慢せずに行きたいって言わなきゃ駄目じゃない。おかげであなたのパンツとズボンは大変なことになったのよ」

「これは私個人の問題です。先生にとやかく言われる筋合いはありません」

「あなた、いつもそんな口調ね。成績下げるわよ。それに随分と偉そうにしてるけど、あなたのズボンとパンツ洗ったのは誰だと思ってるの?」

「保健室の先生でしょ?」

「私よ」

そう言って、先生は酒井に洗い立てのズボンとパンツを差し出した。

酒井はそれらをまじまじと見つめながら、

「これ、本当に洗ったつもり?なんかまだパンツにシミがついてるけど?」

と文句を言った。

「それは元々ついてたシミよ。新しいパンツ買った方がいいんじゃない?こんなのびのびのパンツじゃなくて、もっと女の子らしい可愛いパンツを買いなさい」

刺々しく返す先生。

酒井はふんと鼻をならし、ズボンとパンツを持って回れ右をした。

「ちょっと酒井さん!まだ話は終わってないわよ」

職員室から去ろうとする酒井を、先生が慌てて呼び止める。

「うるさいなぁ…。まだパンツの話したいわけ?」

「はぁ?」

きょとんとする先生。

「パンツの話は聞き飽きたっつーの!」

「パンツの話じゃありません。いいからとっとと戻って来なさい!」

先生に怒鳴り付けられ、酒井はしぶしぶ戻ってきた。

「なにさ、話って」

ぶすっとした顔で酒井が尋ねる。

「あなた、家庭訪問の希望日時の紙、まだ出してないでしょ?」

「あ〜あの紙ね…」

どうでもよさそうに呟く酒井。

「あの紙ならとっくに捨てたよ」

「は?!捨てた?!」

先生は眉を吊り上げて怒りだした。
一方、酒井は平然としている。

「だって、家庭訪問で先生来るのやだもん!」

「じゃあ、いいわよ」

突然先生はふいとそっぽを向いて冷たい口調になった。

「今からあなたのお母さんに電話して、直接聞きますからね」

「え?!聞かなくていいってば!」

酒井は電話に手を伸ばそうとする先生にしがみついた。
先生はふふんと勝ち誇ったように鼻を鳴らし、新たな家庭訪問希望調査書を酒井に手渡した。

「電話されるのが嫌なら、お母さんにこの紙を見せて、明日までに私のところへ持ってきなさい」

「チッ…わかったよ」

そう返事しながらも、酒井は家に帰るとすぐにその紙をゴミ箱に捨てた。

しかし夕方、不運にも母嘉子は、たまたまそのゴミ箱の中に結婚指輪を落としてしまった。
しばらく中を漁っていると、ぐしゃぐしゃになった家庭訪問希望調査の紙が出てきたのである。

「舞由李ー!」

当然ながら、母は激怒して娘の部屋に直行した。

「なにさ、大声出して。私今ゲームしてんだから邪魔しないでくれる?」

「この紙はなんなの?!」

母はゲーム機のコンセントを抜き、酒井にグシャグシャになった家庭訪問の紙を突き付けた。

「あ…その紙は…!くそー!勝手にゴミ箱漁りやがって!このクソババー!」

「何がババーよ!このクソガキ!この紙はしっかり書かせてもらいますからね!」

「そんなぁ〜!」

6


今日は酒井の家庭訪問の日である。

「舞由李。あんたは邪魔だからどこかへ遊びに行ってきなさい」

母嘉子が命令した。

「ふん!言われなくたって、出ていきますよーだ!」

酒井は母に向かってあかんべえをし、とっとことっとこ家を出ていった。

そしていつものように公園に行き、一人でブランコに乗って遊びはじめた。
やがてブランコに飽き、今度は鉄棒をやり始めた。
逆上がりに挑戦してみたが、失敗して地面に落ちてしまった。
酒井はつまらなくなり、公園を出てそろそろ家に帰ることにした。

家に帰ると、ちょうどリビングで母と先生が話している最中であった。
酒井は廊下に立ち、二人の話をこっそり盗み聞きすることにした。

「お宅の舞由李さん、いくつか問題があるのですが、おっしゃってもよろしいでしょうか?」

と、先生の声が言った。

「はい、勿論」

と元気よく母が返事した。

先生は咳払いをしてから、きびきびと話し始めた。

「まずは、遅刻です!毎朝一時間目が始まるギリギリの時間に登校されるのは困ります。きちんと8時20分までに席に座っていてもらわないと!それから、人に対する態度がよろしくありません!この間も、私が舞由李さんの汚れたパンツとズボンをそれは綺麗に洗ってやったというのに、お礼の一つも言わないんですよ」

「まぁ!」と母の呆れた声。

酒井は耐えきれず、ズカズカとリビングに入っていった。

「ちょっと、先生!何が“綺麗に洗ってあげた”だよ!全然綺麗じゃなかったし!シミついてたじゃん!お礼なんて言う必要ありませんよーだ!」

「こら、舞由李!」

母は立ち上がって酒井を怒鳴り付けた。

「先生になんて口利くの!謝りなさい!」

「うるさい!あんたの出る幕じゃない!これは私と先生の問題なんだから!黙ってて!」

母は大人しくなった。
代わりに、今度は先生が口を開いた。

「酒井さん、どうしてあなたはすぐキレるんですか!親に対していつもそんな反抗的なの?」

「そうだよ、文句ある?」

「大有りです。そんな反抗的な生徒はこのクラスにいりません」

「なんだとー!てめぇみたいな先生もこのクラスにいらねーよ!」

酒井はカンカンに怒って、はいていた靴下を脱ぎ、先生に向かって勢いよく投げつけた。

靴下は見事先生の顔面に命中した。

「ぎゃあぁぁぁあ!!」

先生は床に倒れ、もがき苦しんでいた。

「やーい!やーい!」と酒井は大喜びで、はしゃぎ回っていた。

「なんてことするの!舞由李!」

母は激怒して酒井を捕まえようとしたが、酒井はその手をすり抜け、家を飛び出して行った。

「もうこんな家、出ていってやる!」

酒井は家出を決意した。勿論、荷物は一つも持っていない。

歩道を歩いていたその時、突然一台の車が酒井の目の前に止まった。
くすんだ青い車で、車体のあちこちがへこんでいる。

運転席の窓が開き、中の男が酒井に話し掛けてきた。
頭には産毛一つ生えておらず、サングラスをかけた怪しげな男である。

「お嬢ちゃん、お菓子あげるから、車に乗りな」

ちょうど空腹だった酒井は、大喜びで車に乗り込んだ。









7

酒井は車の後部座席に乗り込んだ。
横を見ると、白髪混じりの中年のおっさんが座っており、さらに助手席の方には薄毛のおっさんが座っていた。