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詩集【紡ぎ詩Ⅳ】~始まりの季節~

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ただ さらさらと流れてゆく
この川のような流れの向こうに待つものは何なのか
それは運命という名の大河
恐らく誰も知ることはないのだろう

皆がそれぞれ自分の運命という川に流されながら生きてゆく
或いは ただ流されるのを良しとせず
果敢に逆巻く波に立ち向かおうとする人もいるだろう
それはそれで良い
挑戦しなければ後悔するだけなら
思い切って流れに逆らって泳いでみるのも一つの生き方だ

若い頃は ひたすらがむしゃらに生きていた
流れがどのようなものか見極めようもとせず
しゃかりきになって力一杯泳ぐ
与えられた運命だけでは満足できず もがいていたといもいえるかもしれない
今 一定の歳を経て
この流れに逆らおうとは思わなくなった
他人は歳を取った 臆病になったというだろうけれど
今はあがいていた頃と違い
流れの向こうにあるものを知りたいとも思わなくなった

さらさらと
たださらさらと流れてゆく運命を従容として受け入れ
流れに身を任せながらも
ただ運ばれてゆくだけではなく
自らの意思を持って流れに乗って前を向いて ゆったりと泳いでいく
そんな生き方をしたいと願うようになったのだ

必死で流れに逆らおうとしていた頃
ある人がこんなことを言った―しなやかに したたかに生きる
思えば あの頃のその女性が今の私の年齢くらいだったのだろうか
二十代では言葉は理解できても心では受け入れられなかった生き方も
あの頃のあの人と同じ年代になった今なら
よく判るような気がする
―しなやかに したたかに生きる
流れに逆らうのではなく 流れに乗って自らの意思で泳いでゆく
目指すのは従順ではなく 柔軟な生き方
秋の逆風にも揺るがず 凜として頭を上げて咲き誇る
一輪の秋桜のように


☆「幻影~在りし日の公園 」

その場所に立った瞬間
ハッと別次元に意識がさらわれそうになった
なにげない平凡な日常から非日常へ
悪戯な時間の空白は時として人を現ならぬ世界にいざなう

JR倉敷駅北口からはるかに見晴かせる美しい塔
青空に向かってどこまでも伸びゆくかのような尖塔を戴くその建物を中心に
かなり広い空間が異国めいた情緒漂わせる広場になっている
まるで異邦人エトランゼになったかのような覚束ない
それでいて少しの時めきが混じった高揚した気分で
石畳の広場をゆっくりと歩いてみる
人気のない広い空間
澄んだ水が絶えず涌き上がる人工の泉水
泉水から すっきりと蒼穹に向かって立ち上がる塔を戴く建物
かつて それは「チボリの塔」と呼ばれていたという

実のところ 私はそんなことをまったく知らず
教えたのは夫の一言だった
私が広場で塔を背景に撮った写真を見た夫が
―まだチボリの塔はあったんか!
心底愕いた声で呟いていたからだ
物を知らないとはいえ 私も岡山っ子だ
「チボリの塔」の名前は知っている
かつて倉敷に「チボリ公園」という一大行楽施設があった
要するに公営の遊園地だ
開園以来 倉敷の新名所として脚光を浴び
新聞には
―チボリ来園者、ついに○○人突破。
 などと喧伝されたのを何度も見た
一度はチボリに行ってみにゃあいけん。
そんな時代も確かにあったというのに 時の流れは無情だ
あらゆる娯楽が増え 価値観が多様化してくれにつれ
昔ながらの遊園地から次第に人の関心と脚は遠のいた
人波でごった返していたかつての公園の興行収入が赤字になったと
またこれも新聞で書き立てられた

やがて愛好家たちに惜しまれながら閉園
そこまでの歴史なら何となく程度には知識としてある
だが 私はチボリに行ったことは一度もない
行きたいと思いながら行くチャンスはないままにチボリの歴史は幕を閉じた

何故なのだろう
初めて見る優雅でありながら どこかもの悲しげに見えた異国めいた尖塔
その尖塔を中心とする不思議な空間に強くひき付けられた
―日本にいながらにして外国に行ったような気分。
初めて見た日 ブログに書いた
偽らざる本心だった
後で あの場所がかの有名なチボリ公園跡だと聞かされ
何となく行ったこともないのに既視感があったような
不思議な郷愁を感じたのも理由があったのだと思えてならない

どれだけ多くの人がかつて訪れたのか
昔は子供たちの無邪気な歓声と人声が溢れ
メリーゴーランド 観覧車 
あらゆる遊具施設が所狭しと並んでいたに違いない
順番待ちをする人の長蛇の列
チボリの塔はそんな人たちを守るかのように誇らしげにすっと背筋を伸ばし
彼らを慈しみに溢れた眼で見下ろしていたのだろう
眼を閉じれば かつての華やかなりし時代がすぐ側にあるかのように浮かび上がる
今 昔の賑わいも栄華もうたかたの夢と化し
優雅な塔は幾分かのもの悲しさを漂わせて
ひっそりと佇んでいる
ここがあのチボリ公園 何度も来ようと思いながら来られなかった場所なのか
今度あの場所を訪れたら
きっとそう思うだろう
深まりつつある秋の澄み渡った空をいだかれるように
今日もあの塔は あの場所に立ち続けているのか

☆『三日月』

一歩外に出た瞬間
スッと身が引き締まったのを感じた
大気が昨日までとは微妙に違うことをふと自覚するとき
人は季節(とき)のうつろいを肌で憶えるものなのかもしれない
見上げた空は淡い水彩絵の具でむらなく塗ったような薄い蒼
はるか高みに小さな小さな三日月が沈黙を守り続けている
まるで そこだけ切り絵を貼り付けたかのように白っぽい月
「始まりの月」といえば
新月をイメージするべきなのだろうが
私は何故か三日月を思い浮かべる
ほんの少しだけ ふくらみかけた稚(いとけな)い月が
これから始まる果てしない未来への大きな希望と
先の読めないことへのわずかな不安を表しているような気がするのだ

〝夢〟 ははるか彼方にあるもの
生きている限り可能性は無限大
これまでのあなたで良いのだから
地道に一歩ずつ歩いてゆきなさい
あたならしく積み重ねていくのよ

どこかともなしに玲瓏な女性の声が聞こえてきて
私はもう一度眉月を見上げる
晩秋のキンとした空気の冷たさを全身で受け止めながら

―前へ 前へ 進みなさい
今 新たなスタート地点に立った私を
細いたおやかな月が見下ろしている

☆『石蕗(つわぶき)』

秋が深まるにつれて
セピア色に沈んでゆく庭の一隅
その場所だけ
ポッと灯りが点ったように
温かな色でその存在を主張する

つわぶきを知ったのはいつだったか
菊に少しだけ形状が似ているが
菊ではない
大輪の花のような派手やかさはないけれど
色彩が乏しくなってゆく風景の中で
鮮やかな黄色の花を幾つもつける姿は華やかに見える
初々しい少女(おとめ)でもなく
臈長けた大人の女性
しかも堅実に生きてきた人を彷彿とさせる佇まい
本人に自覚はなくても
存在が家族を癒し和ませる太陽のような女(ひと)

つわぶきは控えめに花ひらきながら
さりげなく存在感を発揮する
それは母と呼べる人の強さ

ふと見上げれば頭上には艶やかに染め上がった紅葉
可愛い黄色のつわぶきと仲睦まじく語らっているようだ
ふと耳を澄ませてみる
―今年も冬が近づいたね。
どこからか ひそやかな語らいが聞こえてきたような気がして
振り返っても