小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

われら男だ、飛び出せ! おっさん (第一部)

INDEX|10ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

9.弟子入り



「佐藤さん、お久しぶりです」
「ああ、村野さんか、お久しぶりですね」
「今日は友達を連れて来ましたよ」
「そいつはどうも、腕によりをかけて……って言いたいところだが、俺はいつでも、誰にでも腕によりをかけてるからね、これ以上よりをかけたら皮が剥けちゃうよ」
「良く知ってますよ、いつもどおりの美味いヤツ、三杯お願いしますよ」
「ハイヨッ!」


「どうだい?」
 佳範が二人に訊ねる。
「美味い……六十三年間これを食っていなかったことが悔やまれるね」
「優しい味だね、なのに上品ぶってないところがまた凄い」
「まあ、とにかく完食しろよ、話はそれからだ」
 
 佳範が連れてきた客は、麺を、スープを、具をいちいち確かめるように食べ進めて行く。
 佐藤はその様子をちょっといぶかしげに眺めていた。

「食べ終えたな……どうだ?」
「最高だよ」
「ああ、文句のつけようがない」
「じゃぁ、いいな?」
「ああ、頼むよ……」
「よし……」
 佳範は居住まいを正して、佐藤に頭を下げた。
「佐藤さん! 俺達を弟子にして下さい! お願いします!」
「え? なんだよ、藪から棒に」
「俺たち、ラーメン屋台を始めたいんです、師匠の下で修行させて下さい!」
「急にそんなこと言い出されてもなぁ……第一、村野さん、あんた、仕事はよ? まだ定年には少し早いだろ?」
「会社は辞めます」
「辞めますって、あんた、グルメ雑誌の編集長じゃないか……後の二人は?」
「こいつは森田優作、神奈川県警で剣道の師範代をやってます」
「よろしくお願いします!」
「こっちは中村秀俊、大手下着メーカーのアンテナショップの店長をやってます」
「どうか弟子にして下さい!」
「おいおい、ちょっと待ってよ……みんな立派な仕事持ってるじゃない、何もラーメン屋台を引かなくても……」
「俺たち、高校の同級生なんですよ、俺はサッカー部、森田は剣道部、中村はラグビー部の主将で、たいしてスポーツが盛んではなかった高校だったんですけど、それぞれ全国大会を目指そうって励ましあった仲なんですよ、それから四十五年、ずっと親友なんです」
「あ……ああ……そうなの?」
「熱い気持はその頃から変ってないつもりです!」
「う……うん……」
「三人で話し合ったんですよ、もうそれぞれの会社での役割は終えた、あと二年で定年ですけど、だらだらと会社にぶら下がっててもしょうがない、三人ばらばらの道に進みましたけど、もう一度三人で力を合わせて何かやってみたい! やろうじゃないか! と」
「ああ……そうなの?……どうやら本気みたいだな……」
「本気です!」
「なんだか気持はわかるし、意気込みも伝わってくるけどね……三人一緒に?」
「ダメですか?」
「見ての通り、そんなに大きい店ってわけでもないからね、一人なら何とか、と思うけど三人はムリだよ、そんなに給料払えないよ」
「給料は要りません!」
「要らないって……食い扶持は?」
「四十年働いて来たんですから、少しは蓄えもありますよ」
「そうなの?……だけどさ、俺の店で働くなら、俺の言うこと聞いてもらわないと困るよ、俺のほうがちょっと年下だけどさ、ヘマすりゃ怒鳴るよ? ダラダラしてたらポカリと行くよ?」
「望むところです!」
「まいったなぁ……断る理由がないじゃない……」
「それじゃぁ!」
「修行はきついよ、最低でも三年くらいはかかるよ」
「そこをなんとか半年で……」
「ちょっと待った、そりゃムリだ、そういう了見なら弟子には出来ないな……」
「ですから、三人で一人前と言うことで……」
「それ、どういうこと?」
「俺はスープ専門、森田は麺専門、中村は具専門で」
「ははぁ……そう言う事か……それならあながちムリとも……」
「「「お願いします!!!」」」
「うん、気迫は本物だな……よし! そこまで考えてるなら俺も腹をくくるよ、いつから来れる?」