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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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当たり屋ジジイ

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女房は面倒なことになるくらいならお金で解決したほうがいいと考える女だ。この程度の事故をごまかそうとするはずが無い。このジジイ怪しいな。
「じゃ、警察呼びましょう。」
「警察は必要ない!」
やっぱり。
 私は携帯を取り出して、110番しようとしたら、ジジイに左手を掴まれてしまった。
「やめてください。」
「警察呼ぶな!」
興奮しているなら、顔を真っ赤にしてそうだが、このジジイそうでもなく、落ち着いた様子で睨んでくる。
「まず自転車を横に除けましょう。車も横に寄せますから。」

 私は落ち着いて、肩でジジイを押し退けるように堂々と歩いて、自転車を起こしてから歩道の上にスタンドを立てた。そしてエンジンがかかったままのベンツに乗った。その時シフトレバーが「D(ドライブ)」に入ったまま電子制御ブレーキがかけられていることに気付いた。パーキングブレーキは踏まれていない。
「こんな状態で停車しているなんて、女房は相当驚いて車を飛び出したんだな。」
 車を交差点の先の横断歩道を越えたところに駐車して、二人のいる地点に戻ると、また女房がジジイと言い合いをしている。それを横目に通行人が通り過ぎていく。女房は恥ずかしい思いをしているだろう。なのにジジイは自転車を確認しながら、わざと大声で文句を言っていた。
「カゴが曲がっとるんじゃ!」
「自分でこかしたからでしょ! その傷だって錆びてるし!」
私はまた間に入って、
「どこにぶつかったんですか?」
「前からカゴに当たった! その勢いで跳ね飛ばされた!」
「車の前に当たったんなら、タイヤから当たりませんか?」
「私当たってないし、車の大分前で勝手に倒れただけだし。」
「ウソつくな! お前がぶつかってきたんだろうが。」
「ご主人さん。車にはキズが無いようですが、あなたはケガされてませんか?」
「腰が痛いんじゃわ。」
と、咄嗟に腰をさすりだす始末。
「・・・・・・。」
私は、女房と顔を見合わせた。

「じゃ、救急車呼びなさいよ。」
近くで見ていた人が叫んだ。この男性はさっき私が車を停めた家の住人だった。
「そうします。」
私は、声をかけてくれた男性に向かってこう言った。
「そんなもん必要ない。自転車弁償して慰謝料払ったらええんじゃろ! 誠意が無いんか!」
やっぱり、無茶苦茶言って来た。私はこんな輩にはひるまない。女房は顔を赤くして更に興奮している。
「やっぱりそれが目当てでしょ!」
また女房が叫んだ。
「自転車壊れてないですよね。車にキズも無いですけど。これで警察呼んでも大した検証ができないと思います。私たち同士の話し合いになりますけど、落ち着いて話しましょう。」
「この女はウソ吐きよる。ちゃんと慰謝料払ったら、警察沙汰にしないでもいい。」
「分かりました。でもケガされてるんなら。ちゃんと病院に行ってください。今行かないのなら、後でケガがひどかったと言われても保障できません。」
「何で治療費払う必要があるの!? 」
「まあまあ、ケガされてるんだし。もう僕らの手に余るから保険会社に連絡するよ。」

 その時、私の車を停めていた通路からトラックがやって来た。駐車中の車が邪魔になることは無かったが、これを機会にそのジジイから離れて、自分のバンに近寄った。
「警察呼んでやろか?」
車の横の家の住人が、小声で言ってくれた。
「はい。お願いします。」
 この男性は、大声を上げるジジイに気付いて軒先まで出てきたのだろうが、事故を目撃していないにせよ、二人のやり取りをずっと見ていたようだ。そして、電話をかけに家の中に入って行った。

 その後私は、事故の様子を最初から二人に聞いた。ジジイの証言は、
「自転車に乗って道路の右側を走っていたら、ベンツが赤信号無視して直進してきよった。道路を渡ろうとした時だったから、真正面からぶつかった!」
と、わざと拳をこちらに向けながら、スゴんで話した。
「どれぐらいのスピードでぶつかったんですか?」
「後ろに跳ね飛ばされて、自転車があそこまで吹っ飛んだから、そっちはノーブレーキだった。」
それに対して女房は、
「青信号だったわ。そっちが正面から車道を逆行してふらふらと走ってきて、なんーーーの前触れも無く、突然車の前を横切って、道路を渡ろうとしたんでしょ。」
と、少し興奮気味に、呆れたという表情をして言い返した。
「前に車走ってなかったの?」
「走ってたけど、車間は大分空いてたわ。」
「おじいさんはこっちを見てなかった?」
「自分が曲がる方向しか向いてなかった。」
「ブレーキは?」
「余裕でかけて完全に止まったわ。そしたらビックリして勝手にこけたのよ。」
「当たらずに?」
「車の1メートル以上前に自転車こけてたでしょ。」

 救急車の音が聞こえてきた。自分たちには関係ないかなと思ったが、救急車の音はこの交差点で止められた。家の住人が救急車も呼んでくれたらしい。
 ジジイはまた怒り出した。私はもうジジイの言うことを無視した。
「この方が腰が痛いと言われていますので。」
救急隊員にこう告げると、女房を連れてジジイのそばを離れてしばらく様子を見た。ジジイの表情は明らかに焦っている。顔が真っ赤になってきた。
作品名:当たり屋ジジイ 作家名:亨利(ヘンリー)