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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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お父さん生きてた

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それはさらに3時間ほど前のこと・・・
父は、椅子に座ってテレビを見ていた。
この椅子は18万円もする介護用の椅子で、スイッチを押せば、座面と背もたれが持ち上がり、自動的に立ち上がることができるという優れもの。
僕がネットオークションで購入した。

机の上には、お菓子が散乱している。
もともと甘い物好きの父は、医者からカロリー控えめを指示されていたけど、本人も残り少ない人生を我慢で過ごすより、好きにしたかったのだろう。
服の胸元にもお菓子の粉がこぼれているが、もうそれは日常的なことで、母が掃除すればそれでいい。
昼間からビールを飲むこともあった。

コマーシャルのタイミングだったのだろうか、父は立ち上がり、酔っ払っておぼつかない足取りで、トイレに向かった。
この家は、築100年を超える古民家で、トイレは玄関土間の向こうにある。介護用に手すり等を取り付けたとは言え、段差が大きく父の移動には不便だった。
地面から座敷の畳までは、60センチほどの高さがあり、土間に30センチのステップを置いていた。

父はここから転落した。
頭を地面に強く打ち付けて、気を失った。

それからしばらくして、宅配業者のおじさんがピンポンを鳴らした。
返事がないのは、毎度のこと。
おじさんはいつものとおり、鍵などかけていない玄関の引き戸を開けて、荷物を運び込もうとしたら、その先の土間に父が倒れていた。

頭から血を流していて、地面に血溜まりができていたそうだ。

配達のおじさんは慌てて声をかけたが、返事はなく、かろうじて息がある状態だったという。
直ぐに119番通報してくれたが、こんな田舎に救急車は直ぐに来ない。
そこで配達のおじさんは、店のほうに電話してくれたが、母はこの時、ゲートボールの練習に参加していて、コールは自動で留守番電話になった。母の携帯にも電話をしてくれた。しかし、忘れっぽい母は、店に携帯を置き忘れていたので、やはり連絡が着かなかった。

それから配達のおじさんは、父に声をかけ続けてくれたが、一向に意識は戻らなかった。
発見から15分ほどが過ぎた頃、実家の電話が鳴った。配達のおじさんは、もしかすると母からの電話かも知れないと思い、その電話に恐る恐る出てくれた。しかし、それは親戚からの電話だった。
おじさんは要領を得ないまま、その電話の内容を聞いてくれた。

その電話を切った後に、救急車が来た。
おじさんは、後は救急隊に任せて、仕事に戻った。その際、もう一度、店に電話して留守電に事の成り行きを録音しておいてくれたのだった。

この時点では、父は息をしていたと言う。
救急隊は頭の傷を確認して、慎重に父を運んだ。
30分後には町の病院に収容されたはずだ。

留守電を聞いた母は、119番に電話して運び込まれた病院を聞いて、バスに飛び乗ったのだと言う。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

病院に向かう車中で、僕のスマホが鳴った。母からだった、妻が電話に出てくれた。
「はい。もしもし。はい、ええー。ああ、そうですか。」
「何? 何々??」
「お父さん生きてたって。」
「ええー!? そうだったの? 通話、スピーカーにして。」

「お母さん。何だって?」
「お父さん生きてた。」
「えっ! どういうことよ。」
「それがおかしな話でねぇ。なんでなのかよく分からないのよ。」

病院の父の病室に到着して、事の成り行きを確認したんだけど、父は意識不明の状態で運び込まれて、頭部裂傷、頭蓋骨にはヒビが入っていたんだそうだ。

「一旦意識は戻って、今は寝ておるんよ。」
「大丈夫なの?」
「命に別状ないって。」
「死んだって話は何なん?」
「宅配の人が死んだって言うんやから。」
「その人に電話してみなよ。」
「電話番号分からんもん。」
「着歴にあるやろう。」
「いろいろ電話してたら、電池無くなって・・・」

僕は、母を車に乗せて実家に帰った。もう暗くなりかけていたが、入院の支度をして、また僕がその荷物を病室に届けるためだ。
弟には事実を伝えて、もう大丈夫だから病院に来なくてもいいと言った。
こんな出来事が突然起こる度に思うけど、段取りよく進めないと、二度手間、三度手間になってしまう。

僕はまず、店の留守電を確認しに行った。
『あっ、〇×運送ですけど、ご自宅でご主人さんが、倒れておられまして、さっき救急車を呼びました。救急車を待っとった間にお家に電話がかかって来て、私が電話に出たんですが、おじさんが亡くなったそうです。また電話かけるそうです。ご主人は救急車で運ばれましたんで、私はこれで仕事に戻ります。・・・失礼します。』

そう言うことだったのか、母は動転して聞き違えたんだな。
亡くなったのは親せきの誰かだろうか。そういう電話がたまたま重なったんだな。

母にこのことを伝えると、また慌てて、
「そうか。きっと重さんだわぁ。もう危ないって聞いとったし。病院も行かないといけないし、重さんの葬式も手伝わななぁ。」
「事情言って、勘弁してもらったら?」
「あんたがおるじゃないか。ちょうど喪服も持ってきてるんだろ。」
「分かったからお母さん、一回、お茶でも飲んで落ち着こう。」


          終