小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

お父さん生きてた

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 

お父さん生きてた



「お父さん生きてた。」

「えっ! どういうことよ。」
「それがおかしな話でねぇ・・・」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2時間前のことだった・・・
長い会議の途中、机の上で会社携帯のバイブが響いた。
『ちょっとやめてよ・・・。』
僕は慌てて、携帯電話を手に取り、通信を切った。
取引先で、クダラナイ安全会議に出席して、各担当者が説明する安全への思いを聞いていると、はっきり言って眠たくなってきていた。
真面目なテーマだけに、会議に水を差す行為は、避けないといけないけど、バイブの振動がこれほどまでに、会議室全体に響くとは思っていなかったので、僕は油断してしまっていた。
「失礼しました。どうぞ続けてください。」
でも、手元でこっそり着歴を確認したら、社外からの携帯電話番号だった。

重たい会議が終わり、やっと取引先を出て、車を運転しながら会社へ報告する内容を大げさに口ずさんでいると、ポケットの中がバイブで震えているのを感じた。
そうだった。電話がかかっていたんだっけ。

僕は公園の横の少し広くなった歩道沿いに車を止めて、着歴にかけなおすと、相手はすぐに出た。
「お前、やっと繋がった。」

なんだ。電話に出たのは母だ。
そうか、この電話番号は母親の番号だったのか、会社携帯には登録していなかったっけ。
「あ、僕だけど、どうした?」
「お父さんが死んだ。」

僕は頭が真っ白になった。

父は数年前に長期入院の後、胆のう摘出手術を受け退院したものの、術後の回復が悪く、1年は入退院を繰り返し、心筋梗塞の特殊な症状で何度も検査をして、新しい手術法の被験者になることに同意し、よく分からないバイパス手術を行った後、血液の回りが急によくなったために、血中のプラークが脳に達し、今度は脳梗塞を発症、同時にパセドー氏病と診断され、半年にわたるリハビリを経て、1年前には何とか自宅に帰ることができていた。
それからは、言葉も儘ならない状況で、何とか物に掴まりながら歩ける程度の生活だった。

「どうして?」
「留守電が入っていて、死んだって。」
「誰から?」
「宅配の人から。」

実家は仕出料理屋を経営しているのだけど、結構な田舎にあって、家から店までは自転車で10分ほどのところ。父が自宅にいても対応できないから、宅配業者に母の携帯と店の電話番号を教えているのだそうだ。

「宅配のおじさんがね。今日来てくれたんだけど、お母さん、ゲートボールに行っててね。携帯をお店に置いて行ってしもうたんよ。」
「ああ。忘れたらいかんでしょ。で、留守電はどんな内容なんな。」
「店に帰ってな。店の電話に留守電が入ってるのに気付いたんでな、すぐ再生したら、宅配のおじさんが慌てた声で、お父さんが倒れとったから、救急車呼びました言うてな。それから電話、もう死んだ言うてたんよ。」
「宅配の人と電話で話したの?」
「そうやなくて、自宅の方にもう死んだって電話がかかってきたが、おじさんが取ったって、留守電に入っとったん。」
「なんか、よく分からないけど、要するに店の留守電は、宅配の人が救急車呼んだけど、後から家に電話がかかって来たのを、宅配の人が出たところ、もう死んだって話だったてことか。」
「そうやろう思う。」

母は動転しているみたいだったから、要領を得ない会話だったけど、今日、宅配業者が来て、倒れている父を見つけて119番し、母に連絡を取ろうとしたが、電話に出なかったために、留守電にそうメッセージが残されていたというのは分かった。

「今病院でバス乗ってるとこ。」
「???」
母はかなり慌てているな。

「僕も直ぐ病院に行くから。病院はいつものとこだな・・・」

電話を切った後、弟の携帯にかけたけど、出ない。
こんな時に便利なはずの携帯も、スマホになって使い方変わって来ているのか、緊急時に連絡が取れないのなら意味がないな。
そこで弟の勤める銀行に連絡をして、ようやく父のことを伝えられた。

僕は妻にも連絡して、すぐ家を出られる準備をさせた。
その後、会社に電話して、このまま帰宅する許可を得たけど、今、社有車に乗っている。これは返しておかないといけない。近所に住んでいる社員の自宅に、その車を停めてさせてもらって、鍵をポストに入れた。気持ちは急いているんだけど、冷静に段取りは考えていた。
と言うのも、父の死はそれなりに覚悟していたからだ。
様態が悪いまま5年ほど生きた父を、よくがんばったと思った。

僕は喪服と数珠を持ち、妻と娘を乗せて家を出た。
実家までは、車で3時間の距離だけど、運び込まれた病院はそこより少し手前にある。
車を運転しながら、いろんなことを考えてしまう。焦って事故を起こさないように気をつけようと心がけた。
お通夜は、今日ってことないよな。明日だろ。葬式は明後日の日取りでいいんだろうか?
妻のお父さんが亡くなった時も、急すぎて冷静に式の予算を計算できなかったみたいだし、お金の計算はちゃんとしないとな。
葬式では母が喪主となるだろうけど、参列者への挨拶は僕がした方がいいのだろうか。どんなことを話せばいいのか、突然のことで、ネットで調べる時間もないな。

あー、しかし、最近は昼間何もすることができなくなってしまった父は、一日中テレビを見ていることが多かったな。人と話す機会もほとんどなく、呂律が回らず何を言っているか判らないし、電話に出ることもできなかった。やっぱり時間の問題だったんだな。