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かずきんぐ
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novelistID. 61939
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懺悔

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あの夜の悲劇からはまるで悪夢を見ている様だった。
勉強の成績が悪いと、母に暴力を振るわれ、クラスメートには毎日学校に登校する度に机に強く罵る言葉が並んでいたりした。
僕も小学6年生に進級していたので、皆が遊んでいる間にも試験勉強をしなければならず、それを理由にいじめは更に険悪化した。
ここまでされたら、普通の人間ならやり返すと思うがそんなことはしなかった。その一つの理由として、母に恐怖を抱いていたのも無論ない訳では無いが、勉強は将来役に立つものと勘違いしていたこともあると思う。だが、この頃の僕がそんな勘違いに気付くはずもなく、勉強ばかりやっていた。
試験1ヶ月と迫ってきたある日、家路をトボトボと歩きながら、色々なことを頭に浮かべ空想を広げていた。自殺してやろうかと本気で思ったことも何度かあったが、僕にそんな勇気があるはずもなく、結局は断念してしまった。その帰路に薄暗く人っ気が全くないブランコとベンチだけという質素な小さい公園があった。
その公園のベンチに座り、今の現状についてもう一度よく思考してみることした。
まず、僕はこの生活から一刻も早く抜け出したいという念があることだ。家出することや、母に反抗的な態度を取ることも何度か考えたが、どれも断念した。どちらにせよ、僕はその勇気がまずない。加えて、やっても無意味なのではないかと感じたからだった。
そのような思考の時間を終え、大人しく家に帰ることにして、無事ついたのだが、玄関に見たこともない男の人の靴と思われる物があった。またかと僕は思った。最近、母は色々な男を家に連れ込むようになっていた。毎日、夜遊びや飲み歩きが絶えず、酷い時には朝方帰ってくる事も少なくなかった。
僕はもう嫌になって、玄関のすぐ横にある階段を使い、二階にある自分の部屋に駆け込んだ。2階には四つ部屋があり、2組とも向かい合うようにして、存在している。
何故、こんなにも無駄に部屋が多くあるのかと疑問に思う人も少なくないだろう。元々、僕の家は一般家庭に比べたら、かなり裕福な方だった。元父は、銀行員で、業績もかなり優秀だったらしく、上司からの人望も厚かったらしい。
以前、母が語っていた。
僕を私立に通わせようと思ったのも、この経済力のお陰だろうなとなんとなく察していた。
僕が眠りにつこうとした時、下の階からは卑猥なやり取りが微かに聞こえていた。

今日の僕の胸は異様な程に高鳴っていた。無論、良い方の高鳴りではない。実はこの時、ある計画を立て、それを実行すると心に決めていた。その計画のためには緊張が伴ってくるのだ。
僕は家に帰りながら、この緊張は今まで経験してきたであろう緊張の中でも随一に入るなと思っていた。
ある計画というのは、母が夜遊びをしている間にある程度の資金を持ち、母の実家である山形に逃げるしかないと考えていたのだ。
母と母の両親が険悪の仲であることは今までの会話で何となくわかったことだ。そのため、僕は1度も山形に訪ねたことはなかった。
僕も母の実家にお世話になることは人生で一度もないのではないかと思っていたのだが、計画を立てている最中に、山形に逃げるというのはどうだと言うふうに考えが浮かんだ。そして、それを僕は実行することにしたのだ。しかし、いくつか問題点があった。まず、始めていくため、無事つけるのかどうかということ、着いたとしても、母の両親が僕を養ってくれるかということ。などだ。まだまだ不安は数え切れないほどあるが、それを今ここで言っていたら、キリがない。奇跡的に家に母はいなかった。
こんなことをしている暇があるなら、準備をしようと思い、僕は準備を始めようとした…


3.遁走

森優子は、足をふらつかせ、今にも倒れそうになりながら、とても肌寒い家路を歩いていた。
「今日は少し飲みすぎたなー。優也しっかり勉強してるかな」
酔った口調で優子は独り言を発した。
優子の服装はかなりの薄着だったが、酔っているため、寒くはないのだろう。
家には残り5分くらいで付く道のみだが、この足取りだと10分ほどはかかるだろう。

僕は山形に逃げる準備を着々と進めていた。
そして、最後の確認作業に取り掛かった時、重大な物を忘れていることに気がついた。資金だ。以前、僕の将来のためにお金を貯めていると、元父が言っていたのを思い出した。その記憶と同時に、まだ家族3人、仲良くご飯を食べたり、遊んだりしていた時の記憶も頭の押し入れから出てきた。だが、僕はすぐに頭を左右に振り、その記憶をまた押し入れにしまった。
「こんなこと考えている暇はない。時間が無いんだ」
そう自分に喝を入れ、その資金を詮索し始めた。
まず、リビング、寝室、物置部屋など、その後も探したが一向に見つからなかった。
資金を探し始めてから五分が経過していた。
僕も焦っていたため、正確な時間は把握していないが、そのぐらいだと予想した。
更にあることが僕の焦りを倍増させた。
母が徐々に迫ってきていることが何となく分かるのだ。
だが、僕はまだ諦めてはいけないと自分に強く言い聞かせ、唯一残っていた自分の部屋を詮索することにした。
もしそこになければ諦めようと思っていた。
希望を失いかけながら、自らの部屋を詮索し始めて3分。
タンスを手探りで探していたのだが、薄手の手帳らしきものが手に当たった。
それを引っ張り出してみると、なんと通帳だった。
僕は喜悦の声を上げた。
だが、すぐに現実に戻されることになった。
もうあまり時間はない。
今すぐ家から出なければこの奇跡も水の泡となってしまうかもしれない。
僕はすぐに通帳をバックの小ポケットに大切に入れた。
その際、通帳の残金を一瞥した。
なんと、500万円以上入っていたのだ。
またも喜悦の声を上げそうになりかけたが、寸前で止めた。
今ここで声を上げてしまうと、母が近くにいた場合、バレてしまう危険性があるからだ。
僕はすぐに扉を開けようとした。だが、慎重に開けた。
そして、外に出た時、ハイヒールの音が聞こえた。
すぐに母の足音だ。と確信した。
僕は咄嗟の判断で、庭の物陰に隠れることにした。
徐々に母の足音が迫ってきている。
こんな緊迫した雰囲気の中でも僕は何故か冷静だった。
母が酔っ払っていることが足音から判断できるほどだ。
そして、母が僕の真横を通り過ぎて行った。
僕は安堵した。
だが、その一瞬の油断が命取りとなった。
少し草のカサッという音をたててしまったのだ。
その途端、母は僕の方に目線を移した。
だが、酔っ払っていたからか、すぐに目線を扉に移し、中に入っていった。
僕はもう手汗と脂汗で身体中、ベトベトだった。
それを軽く拭い、すぐに駅に向かい遁走した。

無我夢中で走っていたため、気づいた時にはもう東京駅に着いていた。
手元の時計で時間を確認した。
短針が8時を指し、長針が10分を指していた。
この時計は元父が僕の誕生日に、役に立つからと言ってプレゼントしてくれたものだ。
東京駅は思った以上に大きく、格好良かった。
僕は新幹線に乗るのも、電車に乗るのも初めてだった。
今まで、使う機会がなかったのだ。
正確に言うと、与えられなかったとでも言うべきか。
作品名:懺悔 作家名:かずきんぐ