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南洋パラヰソ 勃興記

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私が乗ってきた貨物船にかかっていたカレンダーの最後の日から数えて1000日までは
数えたが、いまでは数えてもいない。ひとりで生きている時間が長かったため、私は言葉を失いかけていた。
言葉なんて今更なんの必要があろうか?

あぁ・・だからといって、ロビンソン・クルーソーな身の上を語るつもりはない。

 ある夜、新たに船が座礁した。
その船はサーチライトで我が王国を照らしたので、王である私はその船に出向いた。
乗っていたのは中国人らしい男と中国人、台湾人、タイ人、マレーシア人の女たちだった。
私は片言の英語と身振り手振りでここが私の王国であることを伝えた。
中国人の男はふてぶてしく「だからなんだ?」と云わんばかりの高圧的な素振りで私を見た。
だが食糧の持ち合わせの無かったアイツらは直ぐに私の配下となった。
まだるっこしい多国語間の話を暇つぶしに聴けば男は中国浙江省あたりの人買い商人で。
いわゆる女衒というヤツで。いっしょに船に乗ってきた女たちは各国で売られてきた女たちらしい。
不思議なことに。いや言葉もよくはわからないので私がそう思ったに過ぎないが。
いや・・実際に女衒を含めこの女たちも、なぜかこの過酷な状況からの救出を求める素振りが見えなかった。
チャンポンな言葉が自然発生的に生まれ徐々に意思の疎通が出来始めると。彼らもまた居場所を奪われた人たちで。
家族の為に、また家族に裏切られて、宗教やら人種の違いでその身を売りとばされた人たちで。
ひとまずの飲み水と食料が与えられると、むしろここの場所に自由を感じたようだった。
女衒の中国人は名をチャンという。中国人特有なのか声の大きな男で。だが尊大な態度とは裏腹によく働く男で。
この男にしても巨大な人身売買組織に雇われたに過ぎない男で、端からそんな犯罪まがいの仕事をしたくもなく、ただ喰っていくためには仕事を選べない状況下で。仕方なく売り飛ばされた女たちをTOKYOに連れてゆく、というだけの仕事を
押し付けられた男で。ここで生きていけるなら、あとのことはどうでもいい。
そう思ったらしく、誰も救出を望んでいる様子がなかった。

居場所を失った者たちに与えられた南洋の天国・・そんな空気がここにはあった。

 ただ、人口が急増した王国の食糧需要拡大に対処するため全員で魚を獲る生活が続いた。そして夜は女たちに囲まれ王として悦楽の夜を過ごした。晴れの日には魚を獲り、雨の日には飲料水を貯めながら船内の住環境を女たちの意見を取り入れながら手直ししていった。

ある日チャンはこう持ち掛けてきた。
「ここで商売を始めていいか?」と。
こんなところで何の商売を始めるんだぃ?
チャンは日に焼けた顔をクシャクシャにして言った。
「儲けは山分けだ。」
無線を使う技術を持っていたチャンは無線室に籠った。
そして最初の客が来た。
小さな貨物船だった。
そこから小舟に乗って王国に乗り込んできた。
それをチャンが出迎えた。
「ようこそ南洋のパラヰソへ!女たちはより取り見取りだ!楽しんでいってくれ!」
ヤツは一夜にして我が王国を売春宿に変えてしまった。
「カネはいらない、食料と水と物資を置いて行ってくれ!」
女日照りの船員たちの股間には刺激的な呼び込みだった。
すると瞬く間に貨物船が近くに停泊するようになった。
チャンにしても、女たちにしても此処にしか居場所がない者ばかり。
元の世界に帰ろうと思えば帰れるんだ。
だが皆、嬉々として仕事に明け暮れた。
”どうせ早く着いても湾内で待たされるぐらいなら一日二日遊んだ方がいい。”
船員の間で囁かれる”南洋パラヰソ”は口伝に広まり、客は引っ切り無しに訪れた。
食糧や飲料以外のものを置いていくものも増えた。
生活物資を箱ごと置いてゆく船もあった。
やがてクレーンを搭載した貨物船を使って桟橋を用意してくれる客もいた。
古い発電機を置いていくものもいた。即席の石油精製プラントを作る奴が現れたり。
我が王国は一気に発展した。

 だが、困ったことが起こった。
女たちが妊娠し始めたのだ。
私は女たちの産む子どものことが気がかりだった。
チャンは女たちが産休している間の収入を気にした。
我が王国の宰相となったチャンは昔取った杵柄で女衒もこなした。
「カネはいらない、若い娘を置いて行ってくれ!」
私も昔取った杵柄、産科医としても働くようになった。
そして我が国最初の子どもが生まれた。
男の子だった。
だが、この子どもがここでどうやって生きていけばいいのか。
私は王として満天の夜空を眺めて悩んだ。
だが中華の友人は明快なプランを持っていた。
此処以外で生きてはいけない母親の同意もあって、男の子を売り払った。
「中国じゃ子どもが欲しい金持ちは沢山いるんだ。特に男の子は高く売れる。」
子どもを売ったカネは母親たちに配られたが、使う場所もないこの王国ではなんの価値もなかった。
こんな錆臭いオンボロ船の上でカネなどなんの価値もない。

 客の船も来ないある嵐の日。
私は久々に王として女たちと戯れていた。
しかし女たちを楽しめなかったのはチャンのひと言が気がかりだったからだ。
「どうしても女の赤ん坊が売れないんだよ。在庫をストックしてもいられないしな・・」
人間を、まして子供を「在庫」と表現するチャンの言葉に憤りを感じた。
そんな。リストラ会社やブラック派遣会社でもそんな言葉は使わんぞ。
「ストックしてもいられないしな」だと!?
確かに子供が生まれれば、子どもの世話をするものが必要だ。
ましてここで教育など出来やしない。
売春を主力産業とする我が王国ではダブルに痛手だ。
「だから多少の加工を施さなければならなくなるわけですよ。」
「加工」だと?
子どもに手習いでもさせて曲芸でもさせる気か?
さすがに豪商チャンも口にするのを躊躇ったようだった。
「中国の富裕層の間では不老不死というものに金を惜しまない輩が多くて。
そこがビジネスのチャンスということですよ。
長く生きていればいろいろと身体の中にガタがくる。
医術や漢方でも対処できないほどのガタがね。」
私は意味がよく呑み込めなかった。
「要するに弱った臓器を新たなものに付け替えるということに・・」
つまりなにか・・臓器・・を。
「えぇ、そうです。臓器売買です。」
私はそのあまりに不道徳なその響きの前に吐いた。
定かな場所は私は未だに知らないが此処から船で3時間の処にある岩礁に中国海軍が設置した
滑走路があるらしい。そこから空路2-3時間で大陸に新鮮な臓器が届けられる、だと?
ここにヘリポートを建設するプランだってある、だと?
さらに短時間で鮮度を保ったまま・・おい、貴様、この国は私の王国だ!
いまでは桟橋も製油所も発電所も食糧倉庫もある衛星回線でインターネットだって見られる我が王国は。
「いずれはちゃんとした島でも買って移り住みましょうや。」
あぁその通りだ。そのためにはカネが要る。だがヒトとしてやってはいけないものが・・。
売春を生業としている国の王様がナニを云っている?
確かにそうかもしれない。そうかもしれないがそういう問題ではなくて。
ではここで生まれ育った女の子が母親と同じく売春婦として生きてゆけ、というのか?
作品名:南洋パラヰソ 勃興記 作家名:平岩隆