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南洋パラヰソ 勃興記

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それが果たして人の幸福なのか?
そういう環境だけしか知らなければ、人はそう思う。確かにそうかもしれない。
だがそれはそれでいいのか?
そしてもっと重要なことは人を殺していいのか?ということだ。
人を殺して・・あぁ私は確かに誤って人を殺してしまった。
いっしょに胎児を殺してしまった。
「では手慣れたものでしょう・・」
貴様・・。
「結局、魚の餌にするには勿体ないですからね。」
なんてことだ、コイツは女の赤ん坊を海に投げ捨てていたのか!
「これからは忙しくなりますよ!これは一大産業になる!
臓器の一大養殖事業です。」

 私はいままで信じていたのかもわからない神を裏切る決断をした。
罪に苛まれない精神力が私に備わることを新たな地獄の神に祈った。
私はドクターからブッチャーに転職するのだ。それだけのことだ。
ロースを三枚におろすのと同じだ。
迅速にフレッシュな肉を消費者に届けるのだ、それだけのことだ。

 最初の手術には私は気が動転した。
術後には気が狂うほど喚き散らした。
だが経験を重ねればそれは単なる通過点に過ぎなくなる。
いまでは巨大なタンカーの中に設けられた”ファーム”にこどもたちがたくさんいる。
余計な感情を持たないように産後すぐに母親から離され、新たに雇い入れた飼育係が面倒を見ている。
こどもたちに名前はなく腕に赤いマジックで性別と血液型とシリアルナンバーで構成された番号が
記されているだけだ。

 今日も南洋の座礁した焼けた船体の中のひんやりとクーラーの効いた手術室で。
私は手術用のグローブをつけメスを握る。
手術台には1歳児ほどの赤ん坊。
女児だ。

本日のオーダー表が貼ってある。
「肝臓が2つ、すい臓が1つ、じん臓が1つ・・コレは大至急・・か。」
簡単な摘出手術だ。ヘリの時間にはまだ30分ある。

「王様、急いでください!」

せかしやがる。

ではそろそろ始めようか。







作品名:南洋パラヰソ 勃興記 作家名:平岩隆