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レイドリフト・ドラゴンメイド第21話 シルエットは天使と悪魔

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 白い肌とシュッとしたラインが合わさって、穢れのないイメージがしっくりくる。
 だが、日の当たらない御嬢様というイメージではない。
 手足は引き締まり、意外とたくましい。
 その顔の左半分は木でできている。
 濃いクリームを思わせる色と、やわらかそうな木目が美しい。
 仮面ではない。
 彼女は今苦虫をかみつぶしたような顔をしているが、木の部分も同時に動いている。
 左腕も、同じ木材。
 義手だ。
 さらに背中からは天使の様な羽が生えていた。
 その羽も木製だった。
 羽の間には、折りたたまれた弓と矢を収めた、箙が背負われている。

 ドディは玄関へ向き直った。
 鉄の玄関ドアは、建屋が壊れても出られるように開け放たれている。
 その前には乗って来た大きな四輪駆動車。
【この車にも、世話になったな。
 ポンコツなのに、また無理させてる】
 この車は、生徒会がガラクタ同然だったのを手に入れ、メイメイらが修理した。
 座席のシートは薄く硬い。後ろに倒すこともできない。
 改造の際、シートベルトやエアバッグなどが追加された。
 いざ足として使おうとした時、一部の生徒がないので怖がったからだ。
【メイメイが言ってたな。第二次世界大戦直後の、最初の世代の車みたいだ。とな】
 チェ連では資源の節約や、素早く車を生産しなければならない、などの理由はあっただろう。
 そう言う改良は、ある程度平和な世界でないと成立しないのか。
 生徒会にそんなことを考えさせる一件だった。

【ドディ。
 屋上のハッケが、ここに向かう不審な車両を探知しました】
 レミが、鈴を転がすような声で報告した。
 彼女の義手は、普通の人間の手のようにタブレットをつかんでいる。

【何? どこからだ? それと、どんな様子だ? 
 あ、テレパシー先。屋上にいるハッケはMK.9とMK.10だ】

 ハッケには、スマートコンストラクションという機能が備わっている。
 ハッケ自身やノーチアサンのようなメカ系メンバーからの情報をもとに、現場を3Dデータ化。
 それに気象や地質、建物の材質などのデータを加え、状況を把握する。
 さらに、それをもとに作戦計画の立案さえ行ってしまう。
 元々は日本の建機メーカーKOMATUが、技術のない若手でもベテランのような土木作業を行えるシステムとして作り上げた。
 メイメイは、それを素人でもプロ並みの戦術を使えるシステムとして応用した。

【川沿いの道を川下から走ってきます。
 白旗を上げています。
 ハッケが車内をスキャンしました……終了。
 人がすし詰めになって、子供もいます!
 戦闘目的とは思えません。
 降伏するつもりでは?! 】
 ドディは玄関前の車に、屋根のあるぎりぎりまで近づき、その大きなタイヤの陰に身を伏せた。
 タイヤのホイールが、銃撃などに最も強い場所だからだ。
【待て! 少し様子を見よう】
 レミもうなづいて同意を示し、タイヤのそばにしゃがんだ。

 ふと思いついて、ドディは雨に濡れるのも構わず車に近寄った。
 したことは、車のミラーを覗き込むことだった。
 そこに映ったのは、人間の顔ではなかった。
 縦に長い、馬のような顔。
 後頭部から伸びた、竹のような節を持つ二本角。
 その顔は鹿ヨーロッパやアフリカで見られる、アイベックスなどのカモシカの仲間そのものだった。
 表皮は硬そうな毛で覆われ、色は緑。
 雨水を弾きながら、火災の光を浴びて輝いている。
【俺の顔、見てみろ】
 カモシカの顔が、水のように変わり、内部に吸収されていく。
 内から現れたのは、あごに黒く立派なひげを蓄えた男の顔だった。
【アラブ系の浅黒い顔のことじゃないぞ。
 デーモンに似ているというのも聞き飽きた。
 緑の毛は、アラブで縁起のいい色だからだ。
 俺の顔、老けてるだろ?
 一昨年まで本物の大学生だった、23歳だよ】
 それだけ伝えると、再び身を伏せた。
 
 次の瞬間、彼のまわりの時が止まった。
 これはドディが、これまで何度も思い返し、当たり前になっていることを語るため起こった現象だ。
 大量の情報を一瞬で送ってくる。
【俺が生まれたサウジアラビアという国は、石油が取れるんだ。
 親は石油採掘会社の重役。
 おかげでかなり贅沢をさせてもらった。
 フランスという、外国の……チェ連しか国がない星の人にはわかりづらいな。
 とにかく、遠くの有名商業大学にいた。
 成績もなかなかのものだったんだぜ。
 クラブは今も続けてるバスケットボール。
 シエロとは、一緒にやったことがあるな。
 シュートが決まるたびに女の子がキャーキャー黄色い声を上げていた。
 俺の大学時代は、もっと派手だったぞ。
 どうだ、なかなか充実した人生だろ。
 だが、時代が悪かった】
 そう言ってわずかに視線を動かし、遠くで未だ続く焦土作戦を見る。
【俺はあれと同じ火を見ている。
 俺がいた大学の近くで、テロ事件が起こった。
 事件を起こしたのは、外国から難民として来た異能力者!
 元いた国で、罪もないのに危険生物のレッテルを張られ、追い出されてきたんだ!
 わかるか!? 外国だぞ! 複数の国でそれぞれ異なる政策を行ってるんだ! 】
 いらだつ心のまま、ドディは語る。
【難民たちを、フランスもその周辺の国も、受け入れる政策をとっていた。
 だがな、それに反対する国民もいた。
 難民が、自分たちの仕事を奪うのではないか。
 ここに来るまでに金を使い果たした難民が、犯罪を起こすのではないか。
 そんな不安からな!
 そんな時代がテロ事件を起こした。
 どちらかが始めたかは、結局わからなかったがね。
 当然、フランス人と難民は報復合戦になった。
 そしたら、俺まで胡散臭い目で見られるようになった! 
 警察署で、延々やってないテロ事件の尋問を受ける屈辱!
 お前らにわかるか!
 うっ! 】
 その時、ドディは気付いた。
 同時に、時が元に戻る。
 レミが、不安げな表情で自分を見ていた。

 苛立ちは消えない。
 それでも、安心させる表情を取り繕う。
【俺が日本に来たのは、比較的差別が少ないと聞いたからだ。
 だが、それはあくまで比較的。だ。
 ……もう何もかも嫌になり、すべてを終わらせるつもりで崖の上に立ったよ。
 その時……俺を止めてくれた人。
 それが応隆。PP社の社長で、真脇 達美の兄だ。
 結局、日本政府も俺を疑っていたんだ。
 だが、それのおかげで命を救われた。
 そのことが、生きることへの欲望をよみがえらせたのかもしれない。
 俺は、もうちょっと人の役に立とうと思った。
 高等部に入ったのも、年下相手なら大人ぶれると思ったからだ。
 実際は、それほどでもなかったけどな】

 車のエンジンが近づく。
 騒音公害に厳しい現在の日本車ではありえないうるささだ。
 ヘッドライトが川下から現れ、視界の真ん中に滑り込んで止まった。

 今、彼我を分けるのはメイメイ改造車と車7台分の幅を持つ駐車場。
 駐車場には車50台は止められる。
 その向こうには、コンクリート塀と、閉められ鎖で封印されたゲート。
 ゲートの外に、幌の屋根を持つ車が滑り込んだ。