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「親父からも兄貴からも“ユウタ”なんて奴の話は聞いたことがない」
「お姉さんからも?」
 ソウイチロウがリョウスケ達と楽しそうに話しているユウタをチラリと見て頷いた。
「それに、あいつだけが“オープニング”を見ている。おかしいと思わないか?」
 それは、ボクらがAボタンを連打したからであって、ユウタのせいじゃないと思うんだけど。
「考えすぎだよ、ソウイチロウ」
「だといいんだけどな」
 変に頭が良いから余計な勘繰りを入れてしまうんだな、ソウイチロウは。ボクは、考え込んでいるソウイチロウの手を引いて、三人の輪へ入っていった。

  
「ここって……」
 川沿いを下っていく内に、景色が見覚えのあるものへと変わっていった。最初に気付いたのはサトル。生い茂る背高の草。それを掻き分けて辿り着いたのは、森だった。フワフワの綿毛に覆われたモンスターが、ボクらの姿を見て逃げ出していく。
「随分弱そうなモンスターだな」
 リョウスケが、抜きかけた大剣を鞘に戻して笑った。
 ここへ来るまで、幾匹ものモンスターに会った。ゲームだし、レベルアップの為に戦ったのは言うまでもない。戦いを繰り返す内、それぞれの技もさることながら、一人ひとりの役割も出来てきた。
 作戦参謀はソウイチロウ。右腕はサトル。ふたりが戦い方を考える。ボクは遠距離の敵や空を飛ぶ敵担当。大剣のリョウスケは接近戦担当、サトルはここでも右腕担当。ユウタはヒーリングと進むべき道を示すのが仕事だ。
「『炎の加護』ってのは足だけなのか」
 途中、つまらなさそうにリョウスケが呟いていた。どうやら“魔法”を使いたかったらしい。
「俺なんか、更に分からん」
 ソウイチロウが額の金冠を指さす。このままでは只の“お礼の品”だ。
「ま、所詮、オマケの参加者だしな」
 そう言ってリョウスケの肩を叩いた。
「嫌味な奴だな」
「捻くれてるだけだよ」
 拗ねるリョウスケに、?言うつもりはなかったんだ?と自嘲するソウイチロウ。そう言えば、ふたりがこの世界に来た経路を知らない。
「ゲームはどっちが持ってたの?」
「リョウスケだよ」
 あぁ。だから“オマケ”。
「一緒にいたんだ?」
「まぁな」
「元々、友達?」
「んなわけねーだろ」
「じゃ、どうして?」
 問いかけにふたりが顔を見合わせた。
「そりゃ、あれだよ……」
 頭を掻くリョウスケ。
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒