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関西夫夫 ポピー1

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「おう、栄養たっぷりの缶コーヒーやろ? おまえの口ん中は、その味しかせぇーへん。」
「は? 」
「帰ってきて、ただいまのキスかましたから、もうあかん。・・・はい、口開けっっ。」
 言い訳しても、どうこういう時は口に突っ込むのが基本や。食う気はなくても差し出せば食うので、おにぎり一個は食わせた。それから冷たいお茶を渡すと、タバコに火を点けた。
「朝帰りしたら、ええのに。」
「ドアホ。職場の女なんか、やったら面倒なことになるんや。それに、俺、若い子はあかんのよ。手順とか面倒やんけ。」
「そうなん? 適当に声かけて付いてきたら、オッケーやんか。たまには、柔らかい胸とかケツもええもんちゃうん。」
「そこまで餓えてない。・・・・おまえ、それやったら相手したら、ええんちゃうんか? 」
「させてもらうけど、俺、やわい胸とかケツあらへんもん。」
「もう、そんなんで盛り上がらへんわ。とりあえず、水都、ケツ洗ってきて。短縮コースで。」
「ほな、風呂でしたら、ええんちゃうか? 片付けが楽やろ。」
「せやな。」
 夫夫なんて、わざわざ盛り上げる必要もないので、それでええか、と、立ち上がった。嫁のほうは、そのまま風呂に行ったので、チェストの一番上の引き出しから、小物を取り出して、俺もついていく。まあ、後片付けが楽なんで、短縮コースなら、これが簡単楽チンではある。


 三日ほどして、うちの嫁が仕事で本社に出かけることになったと、帰宅して、ぼやいた。たまに、あっちに呼び出しされているので慣れたもんやが、嫁本人は、いらんらしい。
「何日? 」
「一泊二日。いちいち、呼び出さんでもネットで繋がってるがなっっ。」
 本社は中部にある。そっちに、直属の上司がおって、本社の仕事もさせられている。
「えーっと、今日、水曜やから・・・木金か。ええがな、金曜、迎えに行くわ。ほんで、どっかで温泉でもいわそ。」
「リベンジやな? 」
「そーそー、前の時は、俺が仕事で、あかんかったからリベンジや。今は、それほど忙しないし。」
 以前の出張の時も、そういう予定を立てたのだが、俺が忙しくてチャラになった。今なら、まだ忙しくない。金曜定時で上がって新幹線に乗ったら、十分、間に合う算段や。一泊目は近場になるが、二泊目はレンタカーを借りて遠出するのも可能やから、俺は予定を建てることにした。
 しかし、だ。嫁から翌日の夕方に危険なぐらいの低音で連絡が入った。もちろん金曜に戻ることは戻れるらしいが、土日は潰されるらしい。
「え? なんで? 」
「どっかのボンボンどもが、うちへ研修に来るんやと。ほんで、研修やから、関西のトップが案内せいとかぬしやがるんや。」
「は? そんなん、おっさんらの担当ちゃうんか? 」
「クソどもは帰ってきぃーひんねん。中部で仕事があるらしい。」
「えーっと、水都さん、それってことは・・・添乗員さんってことか? 」
「まあ、そういうもんやな。土日は店も忙しいから本格的に見学すんのは平日やけど接待とか観光とか・・・・ほんま、あのくそじじいども殺したい。市中引き回しの上、河原で斬首して河原に並べたいな。」
 ものすごく不機嫌な声で言ってることが、えらい言葉なので、本気で怒ってることは解る。解るけど、仕事ならしゃーない。研修という名目で中部の若い幹部が遊びに来るらしいので、責任者というか引率者に指名されたらしいが、そんなもん無茶すぎるやろう。うちの嫁に愛想とか求めても無理や。
「それ、ひとりで? 」
「いや、うちの幹部が交代で。明日、帰って打ち合わせやから、遅くなる。」
「わかった。」
 まだ本社なので、仕事が終わり次第戻って、ミーティングなんてことになる。



 ものすごい不機嫌な顔で、翌朝、出勤したら堀内が待っていた。堀内の部屋に落ち着いたら、書類を投げられた。
「ああ? 」
「それ、今回のスケジュール。東川らにもファックスしといた。バスとか宿泊とか、そういうのの手配はしたるから、あとは任せたで、みっちゃん。」
「お断りじゃっっ、ボケッッ。」
「まあ、そう言うてくれんなや。あいつらを、そっちへ追い出して、こっちでやりたいことがあるんや。別で、お手当て出すさかい、やってくれ。」
「俺、宴会とか出るの面倒や。」
「最初だけ顔出して帰ってええ。おまえ、キャバクラとかクラブ行っても、しゃーないからな。そこいらは、嘉藤と佐味田に担当させる。・・・・ほら、怒りないな? わしかて帰りたいのは、山々やが、仕事なんや。今度、帰ったら、たっぷりサービスさせてもらうで? 誠心誠意を込めて、わしがサービスするから。欲しいもんも、なんでも買おうてやる。な? 」
 わざと執務室の扉は開いているから、外へのアピールをやらかしている。堀内の愛人が拗ねているという演技をしているので、俺も抱きつかれたまま、大人しくしている。なんでも買おうてくれるんやったら、花月の靴が欲しいな、と、思いついた。暑くなると靴が蒸れるので、涼しい靴があるとええ、と、亭主が言うてたからや。
「ほんなら、夏の靴。」
「はいはい、靴な。」
「二足くらい。」
「わかってるがな。一足なんてケチは、おっちゃんは言いません。他には? 」
「考えるわ。今、思い浮かばへん。」
 ぎゅうぎゅうと抱き合っていたら、堀内の秘書が会議の時間です、と、扉から声をかけた。はいはい、と、堀内が、ようやく手を離す。堀内が言うには、一応、堀内の知り合いで添乗員経験のある人間がついてくれるとのことや。土日は、適当に観光でもさせて宴会してやればいいので、夜だけは出て来いと命じられた。
「土曜の泊まりは神戸なんで、おまえも泊るか? 」
「はあ? 帰るがな。」
「せやけど、翌日も夕方には出てくることになるで? 神戸二泊、大阪二泊にしといたから。」
「夜だけでええんやろ? 」
「もちろんや。今更、観光したいとは思わへんやろ。」
「神戸で観光? あるんか? 」
「あるがな。六甲山とか中華街とか、こっちにはあらへんもんがある。」
「大阪も? 」
「一応、大阪城とか通天閣あたりは基本とちゃうか? 」
「天王寺でライオンでも見せとけ。あれは珍しい。」
「・・・・珍しいか? ライオン・・・」
「俺は、天王寺でしか観たことない。」
「ちょっと前、こっちでコアラ見たやろ? あん時、ライオンは見やへんかったか? 」
「覚えてへん。」
 そうでした、と、堀内は内心で溜め息をつく。水都にとってビジネス上のことは記憶されないのだ。沢野がコアラと言うたことは、記憶に残っていても他の動物は記憶されていないらしい。
「ライオン欲しいか? 」
「いらんわ、あんなデカイもんっっ。・・・今日、昼から帰って打ち合わせするからな。」
「メシ食うていけ。おいしいもん食わせたる。」
「適当でええ。せや、前のういろは、どこに売ってる? あれ、欲しいんやけど。」
 以前、堀内がお持ち帰りさせてくれたういろうは。おいしいものだったらしく、俺の亭主が嬉しそうに食ってた。あれぐらいは持ち帰ることにしよう、と、思った。
「あれか、昼までに用意したるから会議は、ちゃんと出てくれ。」
「わかった。せいぜい、いちゃいちゃしたろやないか。パパって呼んだほーが、ええか? 」
作品名:関西夫夫 ポピー1 作家名:篠義