小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

関西夫夫 ポピー1

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
春になると、新人が入ってくる。ある程度、研修なんかを終えると、各部署に配属されてくる。吉本のところにも女の子が二人入ってきた。初々しい感じで、とりあえず仕事の内容を教えることから始まる。
「うちは、今年はおらんかったわ。」
「そーなん? うちは二人や。短大卒のおねーちゃんが、二人。初々しい。」
 晩御飯の時に、夫夫で、新入社員についての話題なんてものになった。嫁の職場は欠員がない限り、新人が入ることはないし、入ったとしても嫁との接点はない。一応、その職場のトップなので部屋が個室であるらしい。
「新人歓迎宴会とか、せぇーへんの? 」
「あるで。俺は、小一時間で抜けてくるさかい、おまえとメシ食うけどな。」
「いや、そういう時は会費分は食うてこい。俺は、コンビニで、なんか買おて来るから、ええで。」
「それ、缶コーヒーとかになるんちゃうんか? 水都。」
「マクドでもええけどな。」
「マクドのコーヒーに変わってもあかん。」
「ラーメンぐらいする。」
「するかぁーいっっ。作り置きしたっても食わへんアホが、なにぬかすんじゃ。」
「チンすんの、めんどーやん。パンでも食うから、おまえは食うてこい。たまには、ピチピチのねーちゃんに、お酌でもしてもらえよ。だいたい、仕事のコミュニケーションとか図るもんやろ? サボるって、どーなんよ。」
「俺、適当でええと思うで。俺は、酒もあんま飲まへんのやし。仕事さえ、ちゃんとしてくれたら、そんで御の字や。」
 花月には仕事に対する情熱なんてものはない。税金泥棒と罵られない程度に働こうが、スローガンの男や。わざわざ、花形の部署に行きたいとも思ってないし、残業ばっかりの職場なんて勘弁してくれ、と、異動届も閑職を狙う。そういう人間には、会社でのコミュニケーションも、そこそこでええらしい。
 白菜と糸コンと鶏の炊いたやつに、白飯叩き込んで、俺が掻きこむと、喉が詰まるでーと冷たいお茶を置いてくれる。その炊いたんもご飯も適度に冷ましてあって、俺が掻きこんでもヤケドはせぇーへん代物や。普段、そんな世話をされていると一人で食事すんのが面倒になる。どうしても仕事で残業する時は、俺も外食することにしてるが、実際は缶コーヒーとかで済ます。あれなら、プルトップ開けただけで、栄養補給が出来て腹も膨れるからや。
「とりあえず、会費分は消化してこい。・・・・わかったな? 俺の旦那。」
「まあええけど。それでも俺のほうが早よ帰れるに、五十円。」
「けっっ、俺かて外食して、のんびりするから、おまえより遅くなるに五十円じゃっっ。」
 売り言葉に買い言葉で、俺らは勝負することにした。どっちにしろ、五十円なので、痛い思いは、せゃーへんのやけどな。


 その日は早く帰ることもないし、通常の仕事をしてたら、ええ時間になる。で、このまま帰ると早いから、とりあえず缶コーヒーを飲むことにした。
「俺、先に帰るで? みっちゃ・・・・何、してんの? 」
 東川さんが、挨拶に顔を出して立ち止った。この時間におるのは、大概、俺と東川さんやから、こういうことになる。どっちかが今日の締めをすることになってるからや。
「晩飯。」
「はあ? また、缶コーヒーか? おまえ、昼も、それやったやないか。白飯食わなあかんでっっ。爆弾小僧に叱られるで? 」
「今日はええねん。亭主が留守やからサボっても怒られへんのや。」
「・・・・どっか出張か? 」
「いや、新人歓迎宴会。もうちょっと、他のチェックとかもして帰るから、お疲れさん。早よ、去んでや、東川さん。」
 まあ、一日くらいなら、ええか、と、東川も踵を返す。これが三日続くとなれば、飯を食わさなければならない。なんせ、食事に無頓着な部長なので、放置すると栄養失調になるからだ。東川は、それも堀内に命じられている。以前、それでダウンしたことが多々あるからだ。通称『爆弾小僧』と所帯を持つことになって、その危険は回避できてはているが、たまに出張なんてものはあるので気にはかけている。



 いつもよりは二時間遅く帰ったが、まだ亭主は帰宅していなかった。宴会に最後まで付き合うと最低二時間。二次会も付き合えば、さらに一時間、ということになるから、定時上がりで宴会をしても、俺より早いことはない。駅の本屋で新刊をゲットしたので、着替えて居間で読み出した。俺が読む本は、新刊が一年に一度ぐらいしか出ないやつが多いから、展開を思い出す楽しみもある。すっかり忘れてる時は、しゃーないから去年の分から読み始めたりする。今日のは覚えてて、続きをサクサクと読めた。スペースオペラで、なんでもありな話やから、ほんまありえへんことばっかりでおもろい。

・・・・これ、区切りまでいったら風呂の用意しゃなあかんな・・・・

 区切り区切りと考えて読んでいたが、うっかり俺は沈没した。まあ、ええのや、亭主が帰ってきてからでも風呂ぐらいなら、なんとでもなる。朝帰りになったとしても、こたつで温められてるから風邪もひかへん。



 自分の嫁の行状なんてもんは、十数年も連れ添ってたら、すっかり理解しているもんで、どうせ缶コーヒーやと思われた。ということで、コンビニで、おにぎりを一個買おて家に帰った。もちろん、俺は会費分は食ったので腹は一杯の状態や。一次会だけは付き合って、と、思ってたら新人は二次会には行かずで終わってくれたんで、俺も抜けやすかった。新人が酔うてたんで、ちょっとファミレスでスイーツなんぞ食わせて酔いは醒まさしてから解散してきた。
 カギはかかってないから玄関に入ったら、ものごっつい静かやった。まあ、そんなこっちゃ、と、廊下を歩いて居間に顔を出したら、嫁がこたつで丸くなってた。読みかけの新刊に手を差し込んだままのとこを見ると、読み出して沈没したらしい。一応、スーツは脱いでるから、それだけ回収してハンガーにかける。俺もスーツは脱いで、とりあえず整理すると台所に行った。シンクは綺麗なもんで、何もやった形跡はない。
 おにぎりを剥いて、中身だけを小ドンブリに入れて水を入れる。それをレンジでチンして、じゃこと付属の海苔を千切って載せたら完成。それを冷蔵庫に入れて放置。それから風呂の支度してから、沈没している嫁の横に座る。むっちゅーとキスをして舌を入れると、コーヒーの味がした。

・・・・あーほんま、アホやわーうちの嫁・・・・・

 何にも食うてないから、コーヒーの味だけがする。もうちょっと、細工するとかできひんもんなんやろうか。で、寝汚いのでキスしても起きない。平日なんで無茶はできひんので、鼻を摘んだら、うにぃー? と、目が開いた。
「・・あ・・・おかえ・・・り・・・」
「はい、ただいま。風呂入り。」
「・・いやや・・・もう寝んね・・・」
「寝る前に、綺麗にしたほうが寝やすいんですで? 水都はん。」
「・・もうええ・・・」
「晩飯、何食うた? 」
「・・・忘れた・・・あ、風呂。」
「もう用意した。」
 ウダウダしているが、覚醒はしたので、冷蔵庫から小ドンブリを取り出して戻る。スプーンで、潰した米を口に入れたら、うえ? と、おかしな声を出して飛び起きた。
「とりあえず、これだけは食わす。」
「俺、メシ食ったでっっ。」
作品名:関西夫夫 ポピー1 作家名:篠義