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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅳ

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「吉谷女史は、君のいいメンターになってくれるかもしれないね」
 日垣は美紗に食事を勧めながら、吉谷綾子の話を続けた。
「メンター、ですか?」
「一言で言うなら『良き先輩』かな。単に年上というだけでなくて、これまで培った能力と経験を活かして若い者をサポートしてくれるような存在のことを、欧米では『メンター』と呼ぶんだ」
 美紗は、ほんのりと湯気の立つご飯茶碗に手を伸ばしながら、吉谷の顔を思い浮かべた。人の良さそうな大先輩は、有能なベテランであると同時に、しなやかに生きる理想の女性の姿でもあった。しかし、どちらかと言えば内向的な美紗にとっては、自分とあまりにもかけ離れた輝く存在にアプローチするのは、かなり勇気がいる。
「何人かメンターを持っていると、勉強になるし、なにより心強いよ」
「そうですね。でも……」
「人間関係のことでも、直属の上司より、少し距離のあるメンターに相談したほうが、穏便に解決できることが多いと聞く。松永のことで困ったら、どう考えても、比留川より吉谷女史のほうが、相談相手としては適任だ」
 まるで、昼の寿司屋での女同士の会話を聞いていたかのような言葉に、美紗は驚いて、食べていたものを喉に詰めそうになった。急いでお茶を口に含んで、みっともなくむせるのだけは免れた。
「いえ、そんな、違うんです。松永3佐は……」
 続きの言葉が見つからず狼狽する美紗に、日垣は、「詳細は聞かないでおくよ」と返して小さく笑った。
「松永は、人当たりがいいとは言えないが、悪い人間じゃない。君への接し方が悪いと、私に文句言うくらいだからな」
「松永2佐が、日垣1佐に、ですか?」
 きょとんとする美紗に、日垣はやや気まずそうに頷いた。
「確か、例の会議の次の日だ。君の様子がおかしかったから医務室に行かせようとしたんだが、松永に気付かれそうで、つい焦って大きな声を出してしまった」
 美紗は、沈痛の色を浮かべて下を向いた。あの時、日垣に怒鳴られたことは、はっきりと覚えている。大声に押し出されるように第1部の部屋を出た後、日垣と松永の間にどんなやり取りがあったのか、チームの誰からも特に聞かされてはいない。それでも、松永が無骨なやり方で自分を守ってくれようとしたことは、容易に想像できた。ここ最近も、美紗が些細なミスをして調整先から苦情が来るたびに、彼は先方にせっせと頭を下げていた。