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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅳ

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「すみません。私のせいです。私が松永3佐の立場を悪くしてばかりで……」
「いや、あれは私も反省している。不用意に怒鳴るなど、指揮官職に就く者の言動じゃない」
 日垣は静かに美紗に詫びた。温かなペンダントライトの灯りの下で、誠実な眼差しが彼女を真っすぐに見ていた。
「私もまだまだ未熟だ。この年になるとメンターが減ってくるのが辛いところでね」
 1等空佐の中でも将官への昇進がさほど遠くない位置にいる日垣には、もはや、安心して頼れる人間がなかなかいないのだろう。若い頃の彼を導いた「大先輩」たちの多くは、すでに現役を引退してしまっている。
「メンターは、できるだけ早く見つけたほうがいい。吉谷女史はきっと、快く君のメンターになってくれると思う」
 そこで日垣は言葉を切り、声を落とした。
「ただ、この間の会議の件と、対テロ連絡準備室に関わることだけは、彼女にも気取られないようにしてほしい。尊敬する相手を面倒事に巻き込みたいとは思わないだろう?」
 美紗は神妙な顔で頷いた。吉谷に不利益を負わせるような真似は、決してできない。
「あと数週間待って、どこからも何も言われなければ、取りあえず一安心だ。それまではやはり落ち着かないだろうが……。この件のカタがつくまでは、私で良ければ、いつでも君のメンターになるよ」
 耳に心地よい低い声に、美紗は安堵の笑みを見せた。少し目を潤ませたはかなげな顔を、日垣はしばし見つめ、そして、心なしか照れくさそうに眼を伏せた。

 美紗が食事を終える頃、日垣は、マスターが置いて行ったカクテルメニューを広げた。
「今日はもう遅いから、一杯しか飲めないな。何がいい?」
 少し迷って、美紗はやはり、マティーニを指さした。