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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅳ

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 美紗は、隣を歩く日垣のほうをちらりと見た。墨色の上着だけが目に入った。彼の肩が自分の目線よりも上にある。その向こうにある顔は、暗く静かな通りの風情にしっとりと調和していた。それを乱すのはいけないような気がして、美紗は、開きかけた口を閉じ、下を向いた。少ない街灯が、二人分の影をアスファルトの上にぼんやりと映していた。

 美紗と日垣を迎えたバーのマスターは、前回と同じく、無言で店の奥を指し示した。隣席との間が衝立で仕切られた窓際のテーブル席は空いているようだったが、その周囲の席は、すでに別の客で埋められていた。日垣は、マスターと少し話すと、美紗を連れて、前回と同じ席のほうへと歩いて行った。
 テーブルの上に置かれた小さなキャンドルは、愛らしく火を灯していた。季節に合わせてホルダーが変えられたのか、キャンドルを抱く厚手のガラスからこぼれる光は、温かな黄色味を帯びている。

「吉谷女史に何か聞かれたのか」
 幻想的なキャンドルホルダーの光をぼんやりと見ていた美紗は、日垣の声で現実に引き戻された。