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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅲ

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「テーブルの下で落とし物を探していたら次のセッションが始まっていた、というのは、正直言ってかなり信じ難いシチュエーションだが、君が嘘をついていないだろうということは、感触としてはすぐに分かった。誘導尋問にいちいち引っかかるし、一貫して支離滅裂な受け答えだったからね」
「分かっていらしたなら、どうして……」
 美紗は、背広を着た上官に、はっきりと抗議の目を向けた。一方的に犯罪者のように扱われた時は、心底怖かった。あの時の彼の冷酷な視線が、高圧的な声が、またもや偽りだったとは、あまりにも人を馬鹿にしている。作りものの恐怖に激しく怯える姿は、彼の目にはさぞ滑稽に映ったに違いない。
「あの場で、どうしても、君が『シロ』だという確証が欲しかった。だから、少し心理的に圧力をかけて、反応を見させてもらった」
「私を、試したんですか」
 感情を押さえようとしても、言葉を発するたびに声が震える。頬についた涙の跡が頭上のペンダントライトの光に照らされると、元から幼い顔立ちは、すっかり泣きじゃくった子供のようになってしまった。日垣は、困ったように小さくため息をつくと、静かに怒る美紗の目をまっすぐに見つめた。
「物を無くした、部内情報を外で喋った、という単純な事案なら、迷わず保全課に任せるところだ。だが、今回は海外の『お客』が絡んでいる。紋切り型に処理するわけにはいかないんだ。対応がマズいと国際問題になりかねない」
「あのセッションのことは誰にも話していません。会議場に居残ってしまった不手際は謝罪します。それで……」
「済むんだったら、ああいうことはしていない」
 日垣は、形の良い眉をわずかに寄せた。
「今回の件は、うちの保全課に話を入れれば、間違いなく情報保全隊に報告が行く。そうなれば、スパイ行為を前提に内部調査が入るだろう」
 情報保全隊は、その名の通り、情報漏洩の防止を任務とする専門部隊で、情報管理のみならず、外部組織の自衛隊に対する諜報活動の監視、さらには、防衛省関係者の身辺調査までをも行っている。必要があれば、自衛隊内での捜査権限を持つ中央警務隊と連携して、部内スパイ摘発を目的とした調査活動を実施することもある。