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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅲ

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「私が嘘をついていないと、分かってくださったんじゃないんですか」
 心細そうな声がまた泣き出しそうになった。日垣はそれに淡々と答えた。
「情報保全隊は私の権限の外だ。一旦彼らが調査を始めたら、私が何を言っても、参考程度にしか受け取られないだろう。そもそも、君に悪意がないことを証明するのは、かなり難しい。連中は『やった証拠』を探すのが仕事で、無実の証拠集めをしてくれるわけじゃない」
 一般的な家庭に育った美紗は、左翼的な団体に関わることもなく、海外に出る機会もないまま、大学を卒業し、その後すぐに防衛省に入っている。国の安全保障上好ましくない人物と接触したことなど、あるはずもなかった。しかし、それを物理的に証明する手段がない。
「もし故意はなかったと認められても、次には、君の言う『不手際』が追及される。海外の『お客』絡みで、保全上の不手際は本来あってはならない話だ。相手国との信頼関係にひびが入るからね。こういう場合、国家間の関係を維持するために、当事者は大抵スケープゴートにされがちだ」
「再発防止のために、見せしめにされるんですか?」 
「どちらかというと、相手国に対するパフォーマンスだ。『わが国は秘密保全に厳しく取り組んでいます』というアピールをするのさ。当事者に妙に重い処分を下してね」
 個人を犠牲にして組織の対面を守る、というやり方は、防衛省に限らず、一般の公的機関や民間企業でもありがちなことだ。日垣は嫌悪感も露わにため息を漏らすと、テーブルの隅で静かな光を放つキャンドルに視線を落とした。
「……過去の事例から言って、スパイ嫌疑をかけられるような保全問題を起こした者は、依願退職に追い込まれるケースが多い」
 美紗は力が抜けたように目を伏せた。そんな事態を予想しなくはなかったが、現実に上官の口からその言葉を聞かされると、やはりショックは大きかった。失職後の不安を思う前に、無様で不名誉な辞め方をしなければならないことが、あまりに惨めだった。
「私としてもそれは不本意だ。もともと、君は、情報交換会議に関わる予定はなかったのに、実戦練習のいい機会だと安直に考えた私の判断ミスだ」
 日垣の言葉は、ますます美紗を落ち込ませた。冷遇されていた自分を統合情報局に引き抜いてくれた第1部長から名指しで任された小さな仕事は、美紗にとっては大きな第一歩となるはずだった。それが、完全に彼の期待を裏切る結果になった。使えないどころか、はた迷惑な存在になってしまった。
「そうしょげるな。同じ失敗を繰り返さなければいいことだろう」
「でも、私はもう……」
「保全関係のところに話を入れるつもりはない。今回のことは、とりあえず何もなかったことにする」