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文目ゆうき
文目ゆうき
novelistID. 59247
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睡蓮の書 一、太陽の章

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「残念だったな、お兄ちゃんに会えなくて!」キレスが可笑しくてたまらないというように身をよじる。
「別に……、渡したいものがあっただけだから」ケオルが弁明するが、キレスは聞かず、
「そんなにお兄ちゃん好きなら、南に残ればよかったんだよ。ひとりだけ南を出て、もう戻らない、なんて言ってさ。本当は寂しかったんだろ?」
「それは……、しょうがないだろ。研究に必要な資料はほとんど東にあるし、……南に、ずっといるわけには、いかないし」
 言いよどむケオルに、キレスはここぞとばかりに口(攻)撃を仕掛けている。その口をケオルが塞ごうとし、ちょっとした取っ組み合いのようになった二人に巻き込まれまいと、シエンはいつものように一歩後ろに引き、溜め息交じりに遠くへ目を馳せた。
 ――と、彼らのいる柱廊の向こう、陽の注ぐ白い中庭の石畳を駆け抜ける、ふたりの少年の姿を捉える。
「あれ……、カムアじゃね?」
 ケオルの手を引き剥がし、キレスが言った。
「本当だ」
 少年たちの後ろ姿を目で追い、ケオルは何事かと瞬く。
「なんであいつが来てんの?」
「いや、俺が聞きたい。キレスお前、同じ南に住んでて、何も聞いてないのか?」
「知らねえし。お前こそ、隣のチビガキと一緒にいたんじゃねーの」
「お前、同属だろうが」
「関係ねえし。お前なんか、毎日会ってたんだろ? 俺は、会ってないし」
 キレスとケオルが、またわいわい始めると、
「ああ、それは……」シエンが、彼のペースでやっと口を挟む。「カムアは、太陽神補佐になるんだ」
 キレスとケオルは同時にまったく同じ顔を向ける。シエンが一瞬たじろぐ。
「……信じられねえ」
 キレスが言うと、ケオルは首を傾げたまま唸る。
「あの白装束、まさかとは思ったけど……」
「ふたりは歳も同じだ、気が合うかもしれない」
 シエンがしみじみそう言ったが、賛同の言葉はない。それどころか、
「いや、ダメだろ。トップがガキだらけじゃねえか」
 キレスが断じる。
「だからガキとか言うな、お前が」すかさずケオルが突っ込むが、
「でも頼りないだろ」
「まあ、頼りないな」
 同じ顔を突き合わせてうなずきあう二人。
「そう言ってやるなよ……」
 シエンが後ろから二人をなだめる。
 三人組は、相変わらずだった。

      *

 地を蹴る勢いで駆けるラア。引きずられるようにして、あとに続くカムア。
 カムアは先ほど、ついいつもの調子でラアを呼び捨てにしてしまった後、あわてて無礼を詫びた。
 ラアは、王だった。
 知らなかったとはいえ、今までなんて礼儀知らずな態度を取っていたのだろう。恥ずかしくて、カムアはそれからラアを直視できないでいた。
 そうしてカムアが太陽神補佐となる手続きを終えると、突然ラアがカムアの手を取り、前庭へと駆け出したのだった。
「あ、あのっ、どこへ行かれるのですか、ホルアクティ様――」
「ラアだよ。二人のときくらい、名前で呼んで!」
 そう答えながら、ラアは走るのをやめない。カムアはぐんと引っ張られ、大股で飛ぶように駆けるラアの後ろをあわただしくついて走る。
 中庭を通り、暗い列柱室を一気に過ぎて、開いた光の園へと駆け下りると、参道脇に立ち並ぶ椰子をくぐりぬけ、四角く囲んだ池を過ぎ、茂る緑の影を駆け抜ける。
 キラキラと瞬く木漏れ日。こんなに緑があっても、影より光のほうがずっと強い。木々はどれも、南の森のようにそびえたつほどの丈はなく、葉の形はさまざまで面白い。それらはどれも明るく、若々しい色合いを呈していた。
 そしてなにより目を引くのが、ところどころに咲き誇る花や実の、鮮やかな色。
 枝の合間に燃えるように咲く朱色の花、ねじれて開いた柔らかそうな紫の花弁、太陽を小さくしたらこうもなるだろうかというようなオレンジ色輝く草花、星屑のように群れて咲く小さな黄色の花々。
 陽光の中に、それぞれが角度によってその色合いを変えながら、二つとない色を誇る。
 こんなにたくさんの色。こんなにさまざまな形の植物。カムアにとっては何もかもが新しかった。これが、ラアの育った環境。この明るさ、鮮やかさが、彼の持つ色。――腕を引かれて巡りながら、カムアはそう思った。
 けれどそんな感動とは無関係に、謁見の間からここまで、歩くこともなく全速力で駆け回ったので、カムアの足はすっかりもつれて、何もないところでこけそうになる。
 息が上がっているカムアにやっと気づいて立ち止まり、ラア自身は平気な顔で、声をあげて笑う。そうして、こんどはゆっくり参道を歩いて戻り、列柱室への階段を上がった。
 階段を上がりきったところ、前庭を一望できるその場所に腰を下ろすと、カムアを促す。隣にしゃがんだカムアは、まだ、ふうふう言っている。
 そういえば、カムアと会えなくなったちょうどひと月前、ここにヒキイと座ったっけ。そのときも、今みたいに西日がまっすぐ顔を照らしていて、でも、白い衣服が、なんだか涼しげで、心地よかった。――今も、あの時と同じ。けれど心持ちは、まるで反対だった。
 ラアはすっと、わずかに冷やされた空気を吸い込んだ。そうしてしばらく、カムアが落ち着くのを待つように、陽が西の山にかかるのを見つめていた。
 陽が半分ほど沈んだときだった。前庭の左右に四角く区切られた池、その水がむくりと湧き上がり、小さな子供の姿をかたどる。
 睡蓮の浮かぶ池から現れた二人の子供は、池の水そのままの色、つまり透明で、足や腕の先は形が定かでなく、次々にこぼれ出る水滴を体中にまとっていた。
 精霊と呼ばれるそれは、さまざまな力が結晶化し、形をもって現れたもので、基本的には、四属の神々に従属している。こうして人や動物に似た姿をとるものから、形がなく、ぼんやり灯っているようなものまで、その持つ力によって見た目も様々だ。精霊は、自然に生まれることもあれば、神々が意図的に生み出すこともある。この池の精霊たちは後者で、前庭を潤すために、水属神がここに住まわせ仕事を与えたのだった。
 左右の池から生まれた精霊たちは、庭の半分ずつを担当して、緑に水を注ぎはじめた。池から木々へ、まるで噴水のように左右対称に弧を描いて飛び上がる。その水しぶきが斜陽にきらめくようすは、幻想的なショーのよう。
「朝に見るとね、また綺麗なんだよ。虹が見えるかも」
「すごい…………」
 圧倒されて、カムアはぽつりと洩らす。
 オレンジの、丸い雫がきらきら、きらきら輝いて降り注ぐ。二人は同じように座って、それを見つめていた。
「あの、ホルアクティ様……」
「だから、ラアって呼んでって。他人みたいなの、おれ嫌だから」
「でも、そういうわけには……」
「ちゃんと聞かないとダメだよ。王様の命令だからね」
 ラアが胸を反らせて言うと、少し困惑したふうに瞬いてから、カムアは肩をすくめて小さく笑ってみせた。……ラアらしい。そんな、変わらないものに、安心するように。
 それに応えて、ラアがにっと目を猫のように細める。
「この庭ね、ときどきホリカがお世話してくれたりするんだ。珍しい花を持ってきてくれたりするよ」
「ホリカさん……シエンさんの、お姉さん?」