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文目ゆうき
文目ゆうき
novelistID. 59247
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睡蓮の書 一、太陽の章

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下・花の精霊・2、再開、そして…



 即位式を終え、神々はそれぞれの歩調で帰路についていた。
「なっげぇ……お前の姉ちゃん、相変わらず話し長ぇ……」
 中庭を囲む列柱の廊下には、月神キレスの姿があった。くくくと笑いを漏らすその横で、大地神シエンはバツが悪そうに肩をすくめる。
 久々に顔を合わせた姉は、以前シエンが、前庭の木々に少し(ホリカに言わせてみれば、まったく少しではなかったのだが)力を加えたことを、ひと月経った今になってチクチクと責めてきたのだ。それだけならまだしも、この機を逃してなるものかとばかりに、たまには西に顔を出せだの、いつになったら代表を交代するのか、果ては恋人はまだできないのかなどという、まったく関係ない話まで飛ばしてくる。
「お前ほんと、お姉ちゃんには頭上がらないのな。でかい身体してるくせに」
 頭が上がらないのではない。言い返すのが面倒なだけだ。シエンは心の中で反論したが、口から出たのは溜め息だけだった。
 そもそもこの友人は、姉が現われた途端、どこかに姿を隠したと思ったら、隠れて聞いていたとは。……まあ、彼らしいと言えばそうなのだが。
「ほんと、傑作……」
 と、キレスの声がトーンダウンし、そのまま後ずさりして、シエンの影に隠れる。何事かとシエンが目を馳せると、前庭へと続く西側の建物に、ケオルの姿を捉えた。見れば彼は、いま来た道を振り返り、きょろきょろと首を回して、誰かを探しているようだ。
 そうして中庭に目をやるとすぐ、彼はこちらに気づき、早足で近づいてくる。
「キレス!」
 ケオルはシエンが声をかける前に、その影に隠れたキレスを無理やり引っ張り出すと、非難を込めて名を呼んだ。キレスの腕を飾る金属が、騒がしく音を立てる。
「お前なあ、名前くらい、名乗れよ!」
「いいだろ別に……。俺だって、来たくて来たんじゃねえよ」
 久々の再会だというのに、相変わらずだ。シエンは溜め息をついた。
 十年前の戦、逃れた先が同じ南だった彼らは、歳が同じということでよく一緒につるんでいた。キレスとケオルは昔からよく喧嘩をしたので、シエンはすっかり慣れてしまって、今など懐かしいとすら思える。
 二人の喧嘩は、その半分がそっくりな彼らの顔に起因するが、どうやら今回もそうらしい。しかしよく聞くと、ひと月前、キレスがここ中央にやってきた夜の話であるようだ。そうなると、シエンも無関係ではない。
「ひと月前のことなら……キレスを呼び入れたのは、俺なんだ」
 仕方なく口を挟むと、ケオルは、
「分かってる。けどこいつ、名乗らないなんて、あまりに失礼だろ」
「ちゃんと槍は直してやったんだから、いいじゃねえか。……だいたい、こいつが悪いんだぞ」キレスはシエンを指差し、「精霊使って呼んどいてさ。わざわざ来てやったのに、すぐに門開けないとか、おかしいだろ!」
「偉そうに……。お前のことだから、呼んですぐには来なかったんだろ。ずっと門の傍で待つわけ、ないだろうが」
 ケオルが呆れたように返した。
 確かにその通りなのだが、シエンは少ししまったと思った。そうした流れで、キレスの機嫌を損ねてしまったせいで、彼はシエンの案内を拒んだのだ。気は進まなかったが、一度へそを曲げるとなかなか戻らないことは、長年の付き合いでよく分かっていた。ただそれが、ラアへの態度にまで出てしまうとは、想像していなかった。
 あの後キレスの気配が消え、部屋に戻ろうとすると、ラアが床でぐっすり眠っていた。彼を部屋に運びながら、何かあったな、とは思ったのだ。せめて早朝戻ったヒキイに、事の顛末を説明しておくべきだった。
「まあ……、すぐに気付かなかったのは、悪かったよ……。それにしてもあの時、結界を力づくで壊そうとするとは、思わなかった」
 シエンが言うと、ケオルは信じられないというようにキレスを見た。しかしあまりのことに言葉が出ない様子で、開けた口を閉じられないでいるうちに、キレスはしゃあしゃあと、
「俺一人で簡単に壊れてちゃ、ここの結界、やばいだろ」
 ケオルとシエンは、やれやれと溜め息をついた。
「……ところでケオル、やっと中央に配属か?」
 シエンが、改めて声をかける。以前東で会ったとき、本来「知神ジェフティ」は王のそばに仕えるものなのに、中央から何の連絡もないと気を揉んでいた。王に関わる“秘密”を知った今となっては、それは仕方のないことだったと理解できるのだが。
「そう、やっと。一ヶ月前から」
「長かったな……、三年待ったのか」
「まあね。でも、大変だったのはヤナセのほうだ。ひと月前、俺に事情を打ち明けてくれたとき、やっと肩の荷が下りたと言っていたけど、――秘密を背負うというのは、楽なことではないよな」
「そうだな。太陽神補佐など、大変な苦労だったろうな……」
 十年間だ。王の死、そして未熟な後継者の存在を隠し通してきた。この中央神殿は元々閉鎖的な場所だが、王の代理として外に出、接するヒキイの態度ひとつ、油断すれば容易にそれらの事実が知れてしまっただろう。
 西の代表であるシエンの姉もまた、血の繋がった弟にさえ、それをひた隠してきた。話好きの姉が、自然に振舞っているように見せながら、そうした重いものを何年も背負っていたなんて――まったく、気がつかなかった。
「ガキの相手じゃ、そりゃ大変だな」
 唐突に、無関係なふりをしていたキレスが、そっぽを向いたまま言葉を漏らした。棘も隠さず言い放つ様子にケオルが咎めかけたが、
「確かに、子供、だ。けれどそれは……真っ直ぐとも言うな。それがラアの魅力なんだろう」
 シエンがふっと、半ば独りごとのようにそう言った。
 ひと月前、初めてラアと会ったその晩に、力強く意思を示すその瞳と、彼自身の、次期王としての力を見せ付けられた。――しかし、翌朝に見せたその無邪気な明るさは、それこそが彼の個としての輝きであり、その宿す大いなる力の源となるものなのだと、シエンは漠然と感じ取っていた。
「そうだな、憎めないというか。……悪いほうに出さえしなければ」
 ケオルはほっとした様子で同意する。たったひと月だが、シエンの言う魅力を、彼自身も確かに認めていたのだろう。そうしてキレスは一人、面白くないというように鼻を鳴らす。
 シエンには、ケオルが言わんとしていることがよく分かった。あの無邪気さ、純粋さは魅力だが、軽率さとなって現れる恐れもある。戦の上で、そこがマイナスにならなければよいが――。
「――なあ」
 思い出したように、ケオルが切り出した。
「兄貴、知らないか? もう帰ったのかな……」
 ケオルの兄は、シエンらと同じ南の神殿に住まう、火属の最高位つまり長である。もちろん今日の式にも参列していた。
 ところで、ケオルが兄の話題になると態度を一変させ、普段滑らかな弁舌を滞らせる事実は、彼らの中ではお約束と化していた。そうした話題を逃すわけもなく、キレスが、
「お兄ちゃん……」
 ケオルの耳元で、囃すように言う。ケオルはそれを無言で押し退ける。
「フチアなら、謁見の間を出たのはだいぶ前だ。もう帰っているんじゃないか」
 シエンが答え、ケオルがそうか、と肩を落とすのを見るや、