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大坂暮らし日月抄

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 毎日、まとめられた紙片を眺め清書していると、今置かれている藩の状況、ついては、日本国の底辺層にいる人々の苦難が見えてくる。
 乞食は昨年の秋ごろから増えだし、今年に入ると、その数は一挙に増した。捨子も、最近になってから見られるようになっている。土地を捨て、流浪となった身分の者たちが、都市部の松江に流れ入ってきていた。近隣の者だけではない。全国にまたがって、やって来ているらしい。
――松江藩に行けば、食べる物が得られる。
 どういった理由からか、それを信じてやってくる者が続いているとのことだ。やって来たからとて、受け入れには限界があることが理解されていないのだ。
 行き倒れた身元不明者の人相書きの通達が日ごとに増し、殴り書きされたそれらを整然とまとめて、清書して残しておかなければならない。
 捨子においては、保護者・養育者を探す努力もされた。養子になった結末に至るまでを、前後の関係を明らかにして要領よく記載しておく。
 それらは本来、町村役人の仕事ではあるが、現状おっつかなくなって、全容を把握するためにも藩庁でまとめておく、ということらしい。

 藩ではまた、凶年時の喰い延べ方法を秋口から民衆に知らせていたが、国内各地の庶民が編み出した調理方法、病気に対する民間薬の情報を集めて、近々、再度通達することになっていた。
 米は玄米のまま、石臼で挽いて粥にして食べる。また、籾のまま煎って石臼で挽き、粉にして練って食べる。稗も石臼で挽いて、粥にして食べる。
 米糠・稲の根は、米やワラビ、蕎麦の粉を加えて団子の材料に使う。
 蕎麦の殻、粟の糠は煎って粉にし、練って食べる。
 牛蒡の茎、山老(トコロ)、布のこ(めのこ)などは糧に用いる。
 商陸(山牛蒡)、団栗、栃の実、松の皮、米の籾などの食し方まで、救荒食としてまとめられていた。

 救荒食は、半農武士の集団である松江であるからできることであって、武士、町民、農民と完全に分離されている大坂にあっては、実行に移せることではない。
 思いはいつしか、源兵衛裏長屋の住人や、口入屋九兵衛の身を案じていた。
作品名:大坂暮らし日月抄 作家名:健忘真実