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司令官は名古屋嬢 第6話 『一部』

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   ドォンッ!!!

 八事の車はスピードを落とすことなく、鉄パイプの男に衝突した……。男は宙を舞い、油汚れのあるアスファルトに勢いよく叩きつけられた。そして、ギャグのようにゴロゴロと転がっていく……。流れ出る血が、アスファルトに塗りたくられる。
 男が持っていた鉄パイプは、スラムのボロ家の壁に突き刺さった。あと1本でも刺されば、壁が崩れ落ちそうだ。
 ようやく転がり終えた男は、全身がグチャグチャになっていた……。まるで、踏切で電車と衝突した軽自動車のように、原型をとどめていない。言うまでもないことだが、男は既に息絶えていた。
 車列は、何事も無かったかのように、男の変形死体を横をそのまま通り過ぎていく……。彼らは、ここは危険地域のため、停車しないことにしているのだ……。
 車列が見えなくなると、スラムの人々が、男の死体の元へわらわらとやって来て、ボロ布のような血まみれの服などを次々に持ち去っていく……。

「さっきの件だけど、説明してくれないの?」
上社は、対ライフライン部隊についての説明を、そのリーダーである八事に催促した。そのとき彼女は、フロントガラスについた返り血をワイパーで拭いているところであった……。ウォッシャー液に流されていく鮮血……。
「……そうね」
彼女はそう呟くと、運転席の窓を全開にし、右足のホルスターから拳銃を抜いた。そして、窓の外から拳銃を斜め前方に向ける。何かに狙いを定めているようだ……。

 ……それからすぐに、彼女の拳銃から1発の銃弾が発射された。その銃弾は、斜め前方にあるボロい貯水タンクの側面に命中する……。
 カーンという金属音の後、銃弾によってあいた穴から水がドボドボと流れ始めた。貯水タンクから流出した水は、タンクの側面を流れ、地面に水溜まりをつくり、それはどんどん広がっていく。
「うわー!!!」
「早く穴を塞げ!!!」
すると、血相を変えたスラムの人々が、穴から水を流し続ける貯水タンクの元へ、大急ぎで集まり始めた……。水道がほとんど無いスラムに住む彼らに取っては、貴重な水だからだ……。
 水が流れ出る穴を必死に抑えたり、地面の水溜まりから手で水を急いですくったりしている……。見て見ぬふりで、その横を通り過ぎていく車列……。


「どう? アタシたち対ライフライン部隊の仕事はわかった?」
八事が顔を向けることなく、上社に聞いた……。もちろん、バックミラーも見ていない……。
「うん、十分わかったよ!」
上社は笑顔でそう答えたが、彼女を怖がっていた……。一方、彼女たち対ライフライン部隊のことを既に知っていた東山は、怖がる上社を見て苦笑している。
 そのときちょうど、前方に中京都への入口が見えてきた…。