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司令官は名古屋嬢 第6話 『一部』

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「ん? なんだこの音?」
手を洗いながら、変な音に気づいた上社。戦場の色に染まった耳のはたらきのおかげだ。
 歯を打ち鳴らすような音で、一番奥の個室から聞こえてくる。
「……よほどひどい腹具合なんだろうな」
上社はそう呟くと、それ以上気にすることなく、トイレを後にした。くしゃみの仕方がいろいろあるように、大便の仕方にもいろいろあるだろう。彼はそう納得したわけだ。


「かなり混んでる系?」
「正解……」
やってきた上社の問いかけに、東山はうんざりした表情で答えてみせる。
 さすがに昼食タイムなので、モール内にあるコメダは混雑していた。順番待ちの人が、店の外まで立っている。行列には慣れている様子の八事は、黙ってスマホをいじっていた。
「この分だと、1時間半から2時間ぐらいかな?」
運良く店内で昼食を取っている連中は、フカフカのソファに背中に預けつつ、のんびりと時を過ごしていた……。
「ボクたちは中京都軍の人間なんだから、せめて行列に割り込めないかな?」
せこいことを言いだした上社……。彼のせっかちさが現れた。
「民間人をどかしても、行列の真ん中あたりまでしかいけないぞ?」
東山が、行列のほうをアゴで示してみせた。
 中京都軍の兵士たちが何人か、行列の中にいた。階級の差を活かして割り込むこともできたが、身内から変に恨まれることは避けたかった。
「順番待ちの名前はもう書いてあるから、どこかで時間を潰さないか?」
上社と八事は、東山の提案に乗ることにした。どうせしばらくは呼ばれないのだから、このモールのどこかで過ごしておくほうが有意義だ。
「ボクと東山はゲーセンに行くけど、八事はどうする?」
「アタシは本屋」
「了解。じゃあ、1時間後にまたここで」


 上社と東山は、モール内にあるゲームセンターに入った。平日の昼間なので、ここは空いていた。これなら、好きなゲームを満喫できるだろう。もちろん、財布の中身次第だが……。
「両替してこなくちゃ」
さっそく音ゲーを1人で遊び始めた東山を尻目に、上社は両替機を探す。
「この500円玉で決めるわよ!」
「……え?」
聞き覚えのある声に、即座に反応する上社。
 新しめのクレーンゲーム機の前にいる少女が、持ち帰りづらそうなほど大きなぬいぐるみをゲットしようとしていた。上社よりも年上のその少女は、オレンジ色の帽子を被っている。