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ゴキブリ勇者・魔王と手下編

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ポカポカと暖かい陽気が部屋に差し込んでいる。
俺はあの人の前に座って、演技指導をしていた。


「お前のことが好きだ」

「もっと心を込めて!」

「お前のこと好き。大好き」

「うーん、わざとらしいな」

「なにをやってんだよ」


魔王様が呆れ顔でこちらを見ている。
別にいいじゃない、と俺は笑顔を向けた。


「今、罰ゲームの真っ最中なのよ。わさび入りを当てたら、相手の望む言葉を喋るっていう」

「なんだそれ、二重にキツいじゃねーか。
もし、さっちゃんが勝ってたら、なんて言わせるつもりだったの?」

「さっちゃんって呼ぶなバカ」


あの人が魔王様に名前を明かしたのは最近のことだ。
前からサヤカという名前を知っていた俺ですら、さっちゃんと呼ぶのは抵抗がある。
なのに、魔王様はなんのためらいもなくさっちゃんと呼び続けた。


「まー、私が勝ったら「未来永劫、視界から消えます」って言わせようと思ってたんだけどね」

「ひっど。マジで?俺のことそんなに嫌い?」

「まぁね。アンタはウザすぎるんだよ」


あの人も俺のことをアキラとは呼ばない。
俺たちは名前で呼びあうことすらできない、臆病者の集まりだった。


「まだわさび入りのなにかは残ってるのか?」

「あるよ。わさび味とチョコバナナ味とミカンの缶詰め味の、白米」

「おい、それ全部大ハズレだろ」

「そんなことないでしょ。ミカンの缶詰め味は美味しいよ。食べてみる?」

「いらねぇよバーカ」


缶詰め味を頬張りながら、俺は二人の顔を見る。
楽しそうに笑っちゃって、幸せそうなこと。
なんとなく疎外感を感じながら、俺はぼんやり思った。

近い内に、ここを出ていくことにしよう。
誰にも告げず、一人で出ていこう。
そう決めた。