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CROSS 第21話 『Lieutenant』

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「私たちついてるわね!」
「ああ」

 国防事務局のゲートは、ずっと後方だ。追いかけてくる様子はなく、尾行もなかった。まだプラント内だが、模範的な脱出が成功したわけだ。
 佐世保と上社は、超高層ビルが建ち並ぶ市街地を歩いていた。非常事態かつ深夜なので、人通りは少ない。目立つので、自然と足早になる2人。
 また無人タクシーに乗ろうかと考えた。しかし、行きも帰りも大使館付近だと、後で怪しまれるかもしれないので、徒歩にしたのだ。行軍には慣れているので、難無く歩ける距離だ。
「山口さんは大丈夫かしらね」
「それで何かわかればいいんだけどな」
佐世保の上着ポケットを指差す上社。そこには、機密情報を抜き取ったあの携帯端末が入っている。まだ使ったばかりの端末には熱が残っており、持ち主である彼女の体を温めていた。
「これはもしもの話なんだけど、もし山口さんが死んでいたら、どうなるかわかる?」
彼女はなんとも不謹慎な話を始めた……。しかし、上社の表情に変化は無い。
「後継者がもう決まっているなら、混乱はそんなに起こらないんじゃない?」
「……後継者? ヘーゲルさんかしらね?」
「知らないよ。書き置きがどこかにあったりするんじゃない?」
「気になるわね……」
「それなら、山口さんに直接聞けばいいじゃないか。『あなたの代わりは誰ですか?』って」
彼のからかいに、彼女は「フン!」とすねると、それ以上は何も言わなかった。


 2人は、周囲の確認を済ませてから、旧大使館の敷地内へ入った。敷地内は、国防事務局のそれとは違い、怖い具合に荒れ果てている……。人の手が入らないため、芝生は生えまくり、電灯のポールはサビだらけだ。建物のガラス張り部分は、ほとんど骨組みだけになっている。
 戻ってきてから感じたことだが、この旧大使館は、どう見ても新手のお化け屋敷にしか見えなかった……。
「いつか、CROSSもこうなるのかもな」
「バカ言わないで」
元は自分から言い出したのにもかかわらず、佐世保は話を蒸し返されたくなかったようだ。
 2人は、霜柱のようにガラス片を踏みながら、建物に入っていく。変装に使用した服やIDカードは、元に戻しておいた。また誰か使うかもしれない。