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白久 華也
白久 華也
novelistID. 32235
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SS珍事件

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ああ、驚いた。
透明な淡いピンクに、爪の先だけ、
血色の赤をぽってりと重ねてあるのだった。
なんて紛らわしいネイルアート!

服もその下の肌着も引っ張り出して、めくった先の素肌には・・・・

素肌だった。
かなり、拍子抜けした。
そのわき腹は、よく見れば引っかき傷のような、ミミズ腫れのような跡はあるにはあるが、
逃げてくるほどのひどい目にあっているようには見えない。
最近の話ではないのだろうか。


「母が悪いんです」
「がりっと引っ掻くんです」
「弟が暴力を振るうんです」

どうやら、DVではないらしい。
ふらついている。
警察か、救急車か、どちらか呼ぶしかないかな?

「とりあえず、ベンチで休んだほうが・・・」
と、ベンチに座るよう促すと、長い座面の隅に座ろうとしたのだろうが、
その脇の地面に落ちた。

「だ・・・大丈夫ですか!? 具合が悪いのですね。お薬とかは飲んでいるのですか?」
「ええ、デパスを」
デパス・・・筋肉のこわばりをとったり、うつ状態の改善にも使われる薬だ。
それならふらつきもありえる。
私は医者でも薬剤師でもないが、平均的な日本人よりは少しだけ、そっちのほうに詳しいのだ。
あれこれ詮索するのは気が進まないが。
この人は、うつ病か、被害妄想か、はたまた・・・
で、病院にかかっている?
ベンチに座ると、持っていた巾着型の布袋から、
薬の袋とお薬情報の紙を取り出し私に見せた。
「これを全部飲むときついので、飲まないようにしてるんですけど・・・」
袋には調剤薬局のチェーン店の名前が印刷されていて、中身は空だった。
捨ててくれというので、預かった。
お薬情報の紙には処方したクリニック名が記載されていた。
そして、その内容は、ほとんど全部精神安定剤の類、5種類。
これ全部、一度に処方するんだ・・・?
私もそこまで詳しくないのでなんともいえないけれど、
ちょっと薬漬け過ぎなんじゃないかとも・・・
いやいや、私は批判する立場にない。
薬の出た日は1週間ほど前の日付で、2週間分出ていた。

かみ合わない会話を続けながらも、
どうやって110番するか考えていた。
変に刺激するのも良くないと思うし、
いつまでもここでこうして相手しているわけにもいかない。
妙に気になるネイルアートの指、
手のひらが真っ黒に汚れているのに気がついた。
「手、汚れちゃいましたね。洗いますか?」
「はい」
手洗いに案内した。

彼女のいないところで、夫に経緯を聞く。
スタンド内にふらりと入ってきて、
所在なさげに立っているので、どうしたのか聞いたのだという。
道を聞くのか、トイレを借りたいのか聞いたけれど、
ちぐはぐな答えが返ってくる。
店もそろそろ閉めなくちゃならないし、
一人で帰れるかと聞いたら、帰るというけど、帰ろうとしないし、
警察呼んだほうがいいのかな、と。
どう見ても精神科の領域だよね、と二人で話していると、
彼女が出てきた。

なぜか、置いてあったハンドソープを2本とも抱えている。
作品名:SS珍事件 作家名:白久 華也