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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN 1 ルガーP08

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 俺は工場の敷地内をのぞいた。とたん左肩に衝撃があり続いて銃声がした。奴の射撃だ。必要最小限しか露出させなかったのにやりやがる。しかももう夜だ。またベレッタを突き出して乱射する。反撃はなかった。だが安心は出来ない。敷地は塀で囲まれている。塀から懸垂で顔を出し中をうかがう。見回すと人影が彼方の建物に窓を割って進入している。足はええ。この隙に入り口から中へ入った。
 遮断機の脇からわずかだが血の跡があった。やはり当たっていた。この跡を追っていけば逃げられる事は無い。しかし。
 俺は血の跡は追わず壁沿いに伸びた雑草の中に伏せてゆっくりと建物に近づいていった。建物までは100mくらいはあるだろう。
 また携帯が震えた。
「兄ちゃん、さすがだね。血の跡を追ってこないなんて」
「あんたの射撃の腕は知ってる」
 自らの血の跡を餌に敵を狙撃する。やつなら当然考えるだろう。
 工場の建物の中から光が見え発砲音が轟き俺の後方2mあたりに着弾があった。俺は構わず草むらの中を進む。窓のある側から側面へ。もうすぐ奴からは死角に入る。
「撃ち返しても来ない。ますますやるねぇ」
 発砲すれば奴に位置を教えることになる。奴は建物の中で俺は広い庭だ。位置を知られれば狙撃されてしまう。
「あんたも怪我してるのによくやるな」
 血の量からしてそんなに軽傷じゃないはずだ。
「モルヒネ持ち歩いてましてね」
 用意のいいことだ。
「俺は急いでいる。引き分けってことでこの場は解散にしてもいいが?」
 俺の提案は半ば本気だった。
 だがやつはクスクスと笑った。
「仕事は…… 投げ出せない性分で」
「わかるよ。じゃあケリをつけようか。言っとくが俺の方が有利だぜ」
「あたしの怪我の事ですか?」
 それもあるが。
「ここは俺の街だ」
 俺は電話を切った。もうかけてこられないように電源も切る。窓は完全に見えなくなっていた。俺は念のため辺りを確認してから草むらから飛び出し建物裏の非常階段に走った。
 鉄の非常階段を音もなく駆け上がる。2階のドア、もちろん鍵が掛かっていたが問題ない。キーホルダーにくっつけてある針金で10秒かからず開いた。念のためベレッタのマガジンをチェンジする。何発も撃っていないがその数発が生き死にを分けることもある。
 俺は音を立てずに中に進入し1階へ向かう。電気はついていないが俺の目なら外からの明かりで何とか見える。階段はすぐ横だ。
 奴のいた部屋はベルトコンベアーがある流れ作業の工場だ。遮蔽物が少なく身を隠す場所はほぼ無い。その隣の部屋は陶器にコーティングする部屋で大きな機械が並んでいる。
 奴は怪我をしている。そんなに移動はせず俺を待っているはずだ。
 俺はわざと足音を立ててコーティング部屋に足を進めた。ドアは開け放ったままにしておく。
 部屋は広い。ドアをくぐって横方向に50mはある。その中央に巨大な機械が鎮座し作業台や商品が並び縦方向には視界は開けていない。横方向にも隠れる場所はいくらでもある。
 俺は右へ曲がり物陰にスマホを置く。引き返して少し大きな機械の影に隠れた。
廊下に足音がした。足取りは重い。やはり重傷なのだ。逃げれば追って来れないかもしれない。しかし何故か俺はそうしてはいけないような気がした。
「物音立てて走ったって事は来いって事ですね兄ちゃん」
 その通りさ。早く来いよ。
 足音は入り口で消えた。奴がプロなら、暗い中で気配を感じられるほどのプロなら当然そうする。そしてやつは俺を探しに来る。どのくらい動く…… 一歩二歩。空気の流れを読む。
 ここだ。
 俺は携帯を起動し発信した。
「よお、ここだ」
 俺の声が工場に響いた。俺のいない場所から。
 奴の銃が唸った。発射炎で奴の姿が一瞬暗闇に浮かぶ。飛び出して撃った。だが奴はしゃがみこんでいた。俺の弾丸は奴の頭上を越えていく。見透かしていやがったか。
 ショックなんか受ける前に俺は飛び出して奥に駆け込んだ。ここは小部屋になっている。ドアは観音開きで荷物の出し入れのため大きく開け放つことが出来る。問題は部屋の広さは四畳半ほどしかない。そして出入り口はここしかない。
 つまり袋のネズミだ。
「小細工しましたね。いい手ではありました」
 奴の声は嬉しげだった。アンタじゃなければ今ので勝てていたな。
 特定の電話番号を着信すると入力されていた動画を再生するアプリを俺は作動させておいたのだ。本来は紛失したときに置き場を探す機能だがこういう使い方もあった。うまくいってれば後で自慢してやれたのにな。
 ドアを閉める間はなかった。奴が接近してくるのがわかる。ベレッタをドアの影から出して闇雲に撃つ。まあ当たるはずも無い。
「往生際が悪いぜ兄ちゃん。そろそろ決めるぜ」
「ああ、そうしようか」
 奴が接近してくる気配がした。動きが重い。出血が堪えているのだろう。だが遠慮していたら殺られる。
 俺は目をつぶり部屋のスイッチを押した。辺りを閃光が覆った。
「うお」
 かなり近くで奴の驚愕の声がした。目が眩んだのだ。
 俺は半身だしベレッタを放った。
 暗闇の中部屋から放たれた光にその姿を浮かび上がらせていた。弾丸がその胸と腹に1発2発と食い込んでいく。後ろに倒れながらも奴は銃をこちらに向け撃った。弾丸は俺の腕を捉えた。しかし俺達の活動服は防弾機能がある。衝撃が走っただけで弾丸は俺の体に食い込むことは無かった。俺は倒れた奴にさらに2発撃ち込んだ。
 奴は動きを止めた。
 ここはコーティングを急速に乾かす部屋だ。ここにこれがあるのは知っていた。
 年2回ここは開放され市民祭りをやっている。その際工場見学も行われ俺も参加した事があった。ここは俺の街で奴はここに来た事は無かった。シャコタンの車で波乗り踏み切りに突っ込む奴がこの街の住人であるはずは無い。
 念のため俺は「震える殺し屋」に近寄った。
 驚いた事に奴はまだ息があった。だが、時間の問題か。
「強いね…… 兄ちゃん」
「地の利だ。アンタ怪我してなきゃ相打ちくらいになってたかな」
 奴は笑っていた。何故笑う。
「やっぱり兄ちゃんとはやりたくなかったね」
「同感だな」
 俺はつい本音をこぼしてしまった。
 奴の手にはまだ銃が握られていた。100年以上前のドイツの自動拳銃。古過ぎる銃だ。だがこいつにはこれでなきゃ駄目なんだろう。俺にはわかる。やつは最後にそれを俺に向けるかと思った。だから俺の銃はまだ奴に向いたままだ。
 しかし奴は何故かそれを手放した。
「何故踏み切りの警報を鳴らした。騒ぎを聞きつけられて人が集まれば不利だったのはあんただぜ?」
 俺はつい聞いてしまった。 そしてやつは笑って答えた。
「電車が突っ込んだら大事故になりますよ?」
 それが最後の言葉だった。
 殺し屋が仕事中に人の心配か。
 勝利の快感は湧かなかった。
 奴の無様な死体。
 俺は自分を見ているようでどうにもやりきれなくなっていた。

ACT.3 ルガーP-08

 ヒガシ・コーツは怒りを隠せなかった。
 コールマンが銃撃戦の末、少女を拉致し事を荒立てたのである。
 しかもわざわざ他人名義で借りているこの別宅に連れてきたのである。