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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN 1 ルガーP08

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「兄ちゃんとはやりあいたくなかった」
 言葉の割に嬉しそうな口調だった。少し震えているように聞こえた。
「なんでだ、あんた凄腕だろ」
「兄ちゃんなんかあたしと似てるからね」
 気持ち悪い事言いやがって。
「声が震えてるぜ?」
 すると奴は恥ずかしそうに笑った。
「白状すると仕事の前はいつもこうなんです。大丈夫、銃を握れば安心しますから」
「……」
「もう一つ白状させてください」
「聞こうか」
「兄ちゃんの仲間撃ったのあたしです」
 さして驚かなかった。コールマンに人を撃てるとは思わなかった。コールマンのずっと後ろから狙撃したんだろう。
「女子供には手を出さないんじゃなかったのか」
「彼は子供じゃないでしょ」
 うーん、どうだったかな。
「誘拐の手助けだろ」
 やつは心底困ったように答えた。
「ギリギリセーフって事で勘弁してください」
「勘弁するわけねぇだろ」
「そりゃそうですね」
 奴は何故かさびしそうに笑い、豹変した。
「そろそろ行くぜ、兄ちゃん」
 カプリスが接近してきた。床までアクセルを踏んでいるが見る見る詰められる。
 無理もない。こっちは1600cc、むこうは5700だ。最高速度はまるで違う。やつの下品なノーズがプジョーのバンパーを押し始めた。このまま壁にでも持っていくつもりか。海岸線はまるでカーブのない直線道路だ。どうしてもパワー勝負となる。
 コールマンの車はすでに視界になかった。仕方ない。
 俺は左にターンして市街地に突っ込んだ。軽くホイールベースの短い106は抜群のハンドリングを誇る。やつのオカマほりをかわし市道に切り込む。
 だが奴のテクニックも素晴らしかった。
 素早い反応ででかく重いカプリスを豪快な4輪ドリフトに持ち込み俺の後を追ってきた。
「いい腕だな、おじさん」
「兄ちゃんもね。どこまで行くんだい?」
「今考えてるところさ」
 市街地の道と言ってもカプリスが通れないほど狭いわけじゃない。奴が通れなければいくら小さいといってもこっちも通れないだろう。どっかにはまって亀みたいに動けなくなってしまう。
 ふーむ。
「おじさん、車はこの街っぽいけど地元の人間じゃないね?」
「車は、さっき拝借したものだ」
 サーファー南無。
「そんな車、この狭い街には向かないぜ」
 いうなり俺は路地を曲がる。割と広い道こないだジュンと帰りに通った道だ。ここは通ってないけど。
「誰か巻き込む前に早く止まってくれよ」
 このまま暴走を続ければ確かに市民を引っ掛けてしまうかもしれない。通報されて警察も出てくるだろう。
 今日はそれはまずい。
「兄ちゃん、その歳で誰に仕込まれた?」
 からかうような口調が消えて穏やかな声で話しかけてきた。
 ノーコメントだ。何故そんな事を聞く。
「なんでこんな事している」
「あんたはどうなんだ」
 今度はつい答えてしまった。
 奴ははにかんで笑っているようだった。
「これしか能がないからだろう」
「俺もそんなところだ」
 ちっ、無駄な会話しやがって。集中力が少し鈍っているのを感じた。
 俺は会話を中断することにした。
「もうすぐ目的地だ」
「それは名残惜しい」
電話を切り違う所へかける。情報屋「ちゅーりっぷ」だ。手早く用件を伝えると30秒もたたずスマホに情報が入った。さすがラーメン屋、こんな情報も持っているのか。
 よし、いいタイミングだ。俺はさらに路地に入った。ラギエン通りを北へ。つまり我が家の方へだ
 波乗り踏切だ。頼むぜ、電車来てるなよ。
 果たして踏み切りは開いていた。情報通りだ。俺が要求したのはラギエン通りがすいているかと波乗り踏切が何分後に開いているかだった。 
俺はさらに路地に入った。ラギエン通りを北へ。つまり我が家の方へだ
 波乗り踏み切りだ。
 俺はほんの少しだけ減速すると踏み切りに突っ込んだ。波乗りどころか嵐の海のごとく車が弾んだ。
 だが猫足と称されるプジョー106の足は何とか衝撃を受け止めハーフスピンを起こしつつも踏み切りを乗り切ってくれた。
 そしてやつは。
 轟音と共に踏み切りに突っ込んでくるとまずフロントを地面にたたきつけバンパーを失った。勢いで一つ二つと弾んで飛び越えたが三つ目で腹を強くこすり車輪が浮き上がった。いかにアクセルを吹かしても浮き上がってしまった足では大地を蹴る事は出来ない。時折地面に接触しても腹がつっかえて前に進むことは出来なかった。
 むなしくシーソーを繰り返すさまは正に亀だった。
 シャコタンでこの踏み切りに突っ込むなんて自殺行為なのさ。
 このまま捨てていくか? 一瞬そんな気持ちがよぎった。
 いや、決着はつけるべきだ。奴は危険すぎる。
 俺はダッシュボードの銃を取って外に飛び出た。ハーフスピンしたせいで車は斜めに止まっていた。そのおかげでプジョーがバリケードとなった。
 タタンとまた車に着弾した。前輪の影に隠れる。大口径ライフルでもエンジンブロックを貫通する事は出来ない。
 やつは亀になった車をあきらめ開いたドアを盾に撃ってきていた。
 カプリスのドアは頑丈で分厚い。アメ公がパトカーに使っているくらいだ。拳銃弾相手なら十分盾になる。奴はそれを知っているのだろう。
 だが。
 俺は車に張り付くようにして銃を向けドアごと奴に連射した。。
 ベレッタとは比べ物にならない強烈な反動と共に撃ち出されたテフロン加工の巨大な弾丸はカプリスのドアに大穴を開けた。
 ぐっとドアの向こうで奴がうめくのが聞こえた。
 デザートイーグル50AE。
 世界最強の自動拳銃から発射された徹甲弾は2枚重ねの防弾チョッキを貫通する。車という鉄の塊を相手にするにはこのくらいの備えは必要だった。
 俺は止めを刺すべく連射する。重たい反動が俺の腕を通り抜けていく。
 が、今度は当たらなかった。やつはカプリスの中に戻っていた。カプリスのエンジンを貫通する事はデザートイーグルといえど不可能だ。
 奴はヘッドライトを上向きにした。目くらましか。一端体を引っ込め奴の次の手を待つ。
 しばし後ボンと大きな音がした。
 わずかに頭を出してみるとカプリスは炎を吹き出していた。
 巨大なアメ車は見る間に火柱となり辺りを真っ赤に照らした。
 あの野郎。車に火をつけやがった。これを利用して逃げる気か。
 俺はデザートイーグルを106に放り込みベレッタを抜いた。重く反動の大きいデザートイーグルは銃撃戦には向かないのだ。
 慎重にカプリスを見張る。炎の壁の向こうからフルオートの銃撃があった。咄嗟に頭を引っ込める。腕だけ出してベレッタを連射する。しばらく待ったが反撃は無い。逃げたか?
 と、踏切から警報が鳴った。
 線路内で車が燃えようと自動で鳴るはずは無い。誰かが遮断機のボタンを押したのだ。
 あいつしかいないじゃないか。
 何故だ。警察や消防を呼び寄せるようなものじゃないか。
 こちら側の遮断機の横に人影が見えた。1発撃ってみたが人影はすぐ横にある工場に消えていった。
 波乗り踏み切りの横には国内有数の陶器工場がある。こんな時間だ。人が中にいるとは考えにくい。