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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN 1 ルガーP08

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 状況は詳しくわからなかったがベンたちが襲われているのは明らかだ。こちらのやつらは囮だったか。俺は銃声のほうに走った。
 3発目が鳴ると銃声はしばし収まった。
「ベン、無事か」
 走りながらの俺の問いかけに答えが来る前にジュンの声がかすかにマイクに入った。
「あっち!」
 すばやく動く物音。ガチンと金属音がした。そして銃声。激しい物音。
 聞きたくもない声が聞こえた。
「ベン!」
 悲鳴はマイクを通さなくてももう聞こえていた。
 薄暗くなり始めた林の中に一人の男に引きずられていくジュンの姿が見えた。
 銃を向けたが撃つわけにはいかなかった。ジュンに当たるかもしれない。
 男は俺達に気づき一発撃ってきた。狙いはいい加減で当たるはずもなかったが、とっさに俺達を伏せさせるくらいの効果はあった。
 男はジュンの小さな体をひょいと担ぎ上げその場を走り去っていった。立ち上がって追う。
 が、しばし走って立ち止まった。男がジュンを捕まえた辺り。予想はしていたが、な。
 見知らぬ男が二人倒れていた。ベンが撃ったやつらだろう。そして5mほど離れたところにベンはいた。
 ベンはリボルバーを握ったままその場に倒れていた。胸の真ん中に血がにじんでいた。
「あああのこを助けて……」
 俺を見つけるなりベンは荒い息で言った。
「おおお俺のせい。友達のいい言う事を聞かなかったから」
 ベンはリボルバーを少し動かして見せた。
「たたた弾が出なかった」
 そのリボルバーは俺が渡したS&Wではなかった。ベンが最初から持っていたサタデーナイトスペシャル。
 ガラクタだった。
「おお俺は大丈夫。ぜぜぜんぜん痛くもないな……」
「すぐに痛くなるよ」
 ベンには嘘をつかない事にしていた。ベンの目が丸くなった。
「あああ、熱いな」
「すぐに、寒くなる」
「ああああ、本当だ。寒い」
 ベンの体はガタガタと震えだした。俺はひざまずいてその肩をさすってやった。
「おおお俺はいいから、あのこを……」
 ベンはジュンが連れ去られたほうを見つめた。俺は立ち上がって告げた。
「任せとけ、必ず助ける」
 返事はなかった。震えも収まっていた。
 ジムが追いついてきていた。とりついて大声を上げる。
 俺はその背中に静かに言った。
「後を頼む。俺は行くよ」

 ジュンをさらったやつの顔ははっきり見えた。少々驚きもした。俺はてっきり警察署であった「震える殺し屋」のお出ましかと思っていた。
 ところが相手は大物だった。まだ捕まっていなかったのか。
 リュック・コールマン。
 とにかく早くとっ捕まえないとジュンの命と貞操に関わる。
 が、俺はあわててはいなかった。コールマンの個人情報もかなり把握している。
 俺はプジョーに乗り込み奴を追いかける。海岸線を東へ向かっていた。プジョーを3速いっぱいでぶっ飛ばしつつ俺は携帯で電話をかけた。数回のコールで奴は出た。念のため言っとくがハンズフリーだぜ?
「ハロー、コールマンさん」
「君は?」
「ナンパにしては強引過ぎますよ。年齢も少々離れすぎでは?」
「BIG-GUNとかいうガキか!」
 紳士らしからぬ口調だった。コールマンの本職は青少年育成コンサルタント。青少年の教育、進学、就職などを斡旋する仕事らしいがどう聞いても天下りっぽいお仕事だ。実際やつは去年まで文部省官僚だった。
「ケンちゃん?! ベンは?」
 電話の向こうからジュンの声がした。よく人の電話に割り込む奴だ。人の心配してる場合じゃないだろ。
「今更そいつ捕まえてもメモリなんかでてこないぜ。裸にひん剥いてもな。ま、ひん剥くのが目的なら少しは理解できるが」
「私は子供には興味がない」
 教育者的にどうかと思う発言だな。そうしてみようか、なんて言っても問題だが。
「大体あんたの名前も悪事も公表されちまったんだ。どうしようってんだ」
 奴は答えなかった。
「やっぱりあんたはまだ公表されてない奴の手先だったって事だな」
「きさまっ…… やはり知っているんだな!」
 興奮していた。まあ官僚だった男が女の子誘拐してるんだ。平静な状態のわけがない。俺は勤めて穏やかに切り出した。
「取引しないか。俺はとりあえずあんたの親玉の事は公表しない。証拠のメモリも渡そう。あんたにもこれ以上何もしない。俺の要求は」
「金か?」
 人の言葉を遮って下卑た事を言いやがった。偉そうな奴は常に自分が基準だから困る。
「その娘だ。そいつさえ返してもらえば、あんたの事はもう知らない」
 もう一言付け足した。
「俺は警察じゃないんだ」
 奴の車が見えた。ごねたら手荒い手段をとるしかない。ダッシュボードの中の銃を確認する。カーチェイス中の銃撃戦を想定して少々強力な奴をしまってある。
「信用できんな」
 やつは笑っていった。俺の言葉に嘘はなかった。正直こいつはシェリフが裁いてくれるだろう。奴のような人間には自分達の重大事と女の子一人を引き換えにするなど理解できないのだろう。俺はジュンさえ助けられれば、この場はどうでもよかった。
 たとえベンの仇でも。
「お前たちを皆殺しにすれば取引なんぞしなくても済む。あんな奴でも無事にすめば私の減刑位は簡単にやってくれるんだよ」
「そんな事してくれるわけないだろ」
 俺は冷ややかに言った。
「偉い奴なんて用済みは切り捨てる事しか考えてないぜ。大体なんでこんなばかな事に手を貸した。真面目に働いてりゃ金も権力も手に入っただろうに」
「偉そうな口を利くな、ガキ!」
 俺の言葉は奴の逆鱗に触れてしまったようだ。
「本流から外されてしまった官僚の惨めさが貴様らクズになど理解できるか!」
 奴は電話を切った。やれやれ。俺はダッシュボードの銃に手を伸ばした。
 その時、プジョーのリアガラスが砕けた。撃たれた。後ろから。
 バックミラーで確認する。いつの間にか後ろに馬鹿でかいアメ車がいた。さっきのやつじゃない。真っ黒で丸みを帯びたワゴン。全長約5.5m全幅2.2mもある巨体をV8-5.7Lのエンジンで引っ張る。ロングボードが後ろにすっぽり入るため、サーフィンのメッカたるこの街ではよく見かけるバカモノいやバケモノマシン・カプリスだ。サーファー仕様とも言うべきベタベタに車高を落としたシャコタンに改造された個体だった。色と形があいまって巨大なゴキブリに見える。
 電話が鳴った。非通知だ。この状況では相手は想像がつく。
「また会ったね兄ちゃん」
 知った声だった。警察署で強盗を撃ちぬいた男。
 震える殺し屋だ
「寂しくはなかったよ。後ろの車か?」
「ええ、ちょっと付き合ってもらいますよ?」
「悪いが急いでいる」
 少し疑問がわいた。
「なんで俺の番号知っている」
「兄ちゃん有名人ですからね」
 まぁしらべりゃわかるか。疑問はもうひとつ。
「このタイミングであんたが出てくるなら、コールマンが出張ってくる必要なかったんじゃないのか?」
 質問に男はまたあの薄気味悪い笑いをした。
「あたしはねぇ、女子供には手を出さないんですよ」
 そりゃ紳士だ。
「俺も子供って事で見逃さないか?」
 奴は少し笑ったようだ。
「兄ちゃん程の男にそいつは失礼でしょう」
「そいつはどうも」