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宝の地図

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「今の家に来たのは大正時代で、蔵はその時に建てられたって。金庫はその時からあるみたい。キノヱ婆さんが亡くなった後、曾祖父さんが中を整理して蔵に置いたみたい。お金しか入れてなかったらしいよ」
「キノヱ婆さん?」
 私は自分で作った家系図を先生に見せて説明した。お墓に彫られた内容を書き写したものだ。

   高祖母 稲垣キノヱ 明治七年
       昭和三九年没 九〇歳

高祖母という言葉があるのを初めて知った。読み方がわからないので『キノヱ婆さん』と呼ぶこととした。
「1874年生まれか、麻衣子さんと干支が同じだね、二回り」「二回り?どういうこと?」
 私がビックリすると、いつもの先生の余談が始まった。先生はノートに「甲乙丙……、子丑寅……」と書き出した。下の子丑寅はわかるけど、甲乙丙がわからない。
「干支には十干と十二支に別れててね……」
 先生は暦と名前の由来について簡単に教えてくれた。私は平成六年生まれだから1994年だ、キノヱ婆さんとの年の差はちょうど120年になる。甲山市の甲は「きのえ」と読むのはしらなかった。
「それとね、ウチは代々農家だからか宝なんて無いってお母さんが……、悔しいから今度は兄ちゃんにメールしたんだけど『そこにミイラが埋まってるんだぜ』って」
 併せて私が今まで蔵に近寄らなかった訳を先生に話したら先生は「そりゃないでしょ」と言いながら大笑いして、顰蹙の注目を集めてしまった。
「ところで家族はみんな農家なの?」
「多分そうだと思う」
 私は記憶を確かめながら、ノートに書いたキノヱ婆さんの夫に当たるお爺さんを指さした。

   高祖父 稲垣麻二郎 明治五年生
       明治三七年没  三二歳

おじいちゃんは麻二郎爺さんには会ったことがないからよく知らないんだって、でも曾祖父さんが農業してたのは間違いないよ。
「とにかく、時期的に考えてこの地図はキノヱ婆さんのものだと思う。その麻二郎爺さんは蔵や金庫を知らないからね。そうだな、キノヱ婆さんも甲山の人なの?」
「いや、よそから嫁いできたって。確か……、何て読むのかな?オツハ……」
「乙浜(おとはま)?」
「そう!それだ」先生の好アシストで思い出した。そして私はそのノートに『乙濱』と書いた。
「古い書き方だね、今は『乙浜』と書くんだ。古い小さな城下町だ。いいところだよ?とっても」
 少しのヒントで先生は次々と答や次なる質問を出してくる、今日ばかりは先生がちょっとだけカッコよく見えた。
「乙浜はめちゃ詳しいよ……、だって僕の出身地だもん」
 先生は、自分が地方から下宿している苦学生だとよく言っている。お金が無くてパンの耳で生活したり、いつもオンボロの原付で私の家に来る。お世辞でもお金は持ってそうに見えない。そのイメージが強くて、週に二回は会っているのに出身地の事は今まで聞いてなかった。
「ってことは乙浜の地図かな?」
 私は乙浜がどこにあるのか知らないし、家でもその名前があがったこともない。おじいちゃんですら名前くらいしか知らない土地のようだ。
「でもね、地形が全然違うんだよね、今の乙浜市と。言われてみれば似てなくもないんだけど」
 先生は試験で忙しいと言っておきながら『宝の地図』には興味があるようで、私が書いたメモと地図とを交互ににらめっこしている。先生も私と一緒で、一度脱線したら収まらないタイプなんだろう。
「よーし、次の調査は乙浜だ。キノヱ婆さんの出自が解れば宝もあるかもだ」
 確かに、先生の言うようにウチに嫁ぐ前のキノヱ婆さんがどんな人か解ればこの地図の謎が解ける、つまり宝を見つけられるかもしれない。調査が着実に進んでいる事を実感するのに比例して私の気持ちが高ぶってきた。

「ところで先生、宝を見つけたらどうするの?」
先生は立ち上がってニンマリとして私に答えた。
「そりゃもちろん、クーラー買うんだよ。灼熱の部屋に……」

作品名:宝の地図 作家名:八馬八朔