小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

宝の地図

INDEX|10ページ/26ページ|

次のページ前のページ
 


 私はいつものようにみっちり二時間先生に勉強を教わり、その後は日頃食べないような豪華な夕食を食べた。先生もお父さんやおじいちゃんの顔を見て多分わかってたと思うけど、恐縮しながらいっぱい食べていた。私もその恩恵に預かったのだから、ある意味で先生に感謝だ。

 食事が終わると、私は先生を仏間に案内した。この部屋も兄ちゃんの部屋同様、日頃は使われていないけど、おじいちゃんがきちんと掃除していてきれいにしてある。私の中では今話題の人、仏壇の上にいる『宝の地図』の持ち主であった高祖母のキノヱ婆さんを紹介したかったからだ。
 襖を開けると仏間にはおじいちゃんが中で仏壇の供え物を下げていた。私たちと目が合うと、おじいちゃんはたった今下げてきたお供えの饅頭を手にして私たちに座卓に座るよう勧めた。
「調査は進んどるか?」 おじいちゃんは饅頭を一つ食べながら、私と先生にも一つづつ手渡しした。それはそれでおじいちゃんも『宝の地図』が気になっているみたい。
「あの地図は乙浜なんじゃないかって先生が」
私は早速饅頭を食べながら質問に答えた。
「ほぉ、そうか」
「私、乙浜出身なんです。お婆さんが私と同郷のようですね?」
「すまんが乙浜の事についてはワシもよう知らんのじゃ。お婆さんはあんまり自分の事を話す人ではなかったからのぉ。でもワシでよかったらいつでも協力するぞ」
 おじいちゃんは先生にキノヱ婆さん始め、額に入っているご先祖様を紹介した。
「お婆さんだけ洋装なんですね」
先生の言葉を聞いて私も並んだ遺影を見た。確かにキノヱ婆さんだけが洋服を着ている。言われてみないと気付かなかった。
「そうじゃな、お婆さんは洋服が好きな人じゃったなぁ」
 それから先生は一様にお辞儀をして挨拶したあと、手にした饅頭を口に入れていた。
「じゃがしかし先生は乙浜なのに、地図を見てそうだと言い切らないのか?」
「そうですね――」先生はあらかじめ用意していた乙浜市の地図を私の地図の横に並べた「まず、バツ印の辺りに山が無いし、僕の実家は海の中になってしまいます。線路も途中までしかありませんよね……」
「ほうほう――」
「ただ明治の頃の乙浜はどんなだったかはよく調べてみないとわからないですし、私も興味があります」
 私もこの時初めて今の乙浜市の地図を見た。確かに似てる、でも似てるだけなら他の町であるかもしれない。今の地図では『宝の地図』と較べて山は右に一つしかないし、中央を縦に流れている川も大分右の方にあり、海沿いの道路も町の真ん中位にあって、線路も端から端まで通っている。そして宝のあるバツ印の辺は今では大きな公園だろうか。
「何か決定的な共通点ってないんじゃろか?」
「今も昔も変わってないものがこの地図にあればいいのだけど……」
 先生は指で私の地図をなぞっているけど答えは出なさそうだった。
「先生、この木は?」
 私は地図にある右の山の真ん中辺りに一本だけ木が描かれているのを指さした。
「山なんだから木はいっぱいあるでしょ、なのに一本だけ描いてあるのは……おかしくない?」
素朴に思っただけの事を言ったのに、先生は急に手をパチンと叩いた。 
「これだ。やるなぁ麻衣子探偵」
 先生は私を褒めてくれたけど、意味がわかるのは乙浜市出身の先生だけぽかった。おじいちゃんも私と一緒でポカンとしていた。
「確かにこの木は百年経っても変わらないよ、これはね『御神木』だ――」
「ゴシンボク?」 私は昔の響きがする言葉を繰り返すと、おじいちゃんが説明してくれた。
「神が宿る木のことじゃ。当時から乙浜のランドマークだったんだろう」
「ランドマーク?」
 古めかしい日本語を使う先生と英単語を使うおじいちゃん、普通逆じゃない?私はどっちも意味がわからなかった。
「町の目印の事だよ。それなら思い当たる節がある、とすればやっぱりこれは乙浜の地図だ」
先生は今の乙浜市の地図上の一点を指した。
「ここに古い神社がある、もちろん御神木も。ここで聞き込みしたら何かわかるかもよ」
「でもどうやって行くの、遠いんでしょう?」
「よーし、ワシが車で連れて行ったげよう」
 そこでおじいちゃんが割って入ると、私と先生の顔は揃っておじいちゃんの方に向いていた。
「久子さんにはワシが説得するよ。麻衣子のご先祖様は、自分のお婆さんじゃ。ルーツを探るのも面白そうだな、ワシも協力させてくれんか?」
 そう言うおじいちゃんの目は子供のように爛々としていて、断ると駄々をこねるぞと言わんばかりの顔をしているのが面白く感じた。もちろん私はオーケーした。

 こうして結成された「でこぼこ調査隊」は、次の調査をするため、進路を乙浜という、私の知らないご先祖様の出身地に舵をとることになった。
「絶対見つけて来るからね」
私はお鈴を鳴らしてご先祖様のいる仏壇に手を合わせた――。

作品名:宝の地図 作家名:八馬八朔