小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ヤマト航海日誌

INDEX|88ページ/201ページ|

次のページ前のページ
 

理由は、〈スターボウ計画〉でしょう。それが〈彼ら〉をあせらせたのだ。それに違いないと思います。地球はそれまで何十年も〈彼ら〉のUFOと戦ってきた。おそらく最初の戦闘機は、十対一でUFOに敗けていたに違いない。相手を一機墜とすためにこちらは十機が殺られていた――しかしそれも、1980年頃には互角に持ち込むほどになっていたのですよね。そして〈エリアル〉という新型機に〈スターボウ部隊〉のパイロットが乗り込むと、逆にこちらが十対一で敵を墜とすようになった。

そういう話でしたよねえ。地球の方がはるかに優位に立ったのです。どうしてこれで、敵の言うことを無条件に聞いてやらねばならんのですか。

〈彼ら〉はあせりだしたのですよ。このままいくと地球にまったく勝てなくなると考えて、余裕を持ってはいられなくなってしまったのです。

それが妥当な推測ではありませんか? また、このままいったなら、地球は敵のUFOを生け捕りにできるようになるかもしれません――いや、きっとできるでしょう。そうなったら〈彼ら〉のワープ機関の秘密を解明できるようになるかもしれない。

いや、きっとできるでしょう。〈彼ら〉もまたそう考えるしかなくなるでしょう。だからあせりだしたのですよ。UFOを捕獲されたらそのときこそおしまいだ。もう本当にこちらの敗けだと〈彼ら〉は考える他にない。

そういう理屈になりませんか。〈彼ら〉は〈アルファ・ケンタウリ〉の方角からやってきているということに、小説ではなってましたね。消防署の方から来る人間が消防署の人間とは限らないのと同じ理屈で、〈彼ら〉が確かに〈エイクルス星系〉の〈人間〉なのかはわからない、ということにあの小説はなっていました。

でも、やっぱり、エイクルス星系人なのでしょう。きっと4.3光年を来るのに、一年くらいかかるんですよ。〈ワープ〉と言ってもその程度のものなんです。それだってたいしたものですよ。だからそれを地球に知られてしまうことを、〈彼ら〉は恐れているのです。

そうに違いありません。そうとでも考えなければ、あんな話、スジが合わないじゃないですか。だからなんとかUFOが捕獲されない今のうちに地球を降伏させようとして、あせるあまりにあんなただのハッタリとひとめでわかるショボイ脅しの文を送ってきたのだと――そう解釈するしかないんじゃないかな、あれは。

だから黙殺でいいんです。だからキーラーが正しいのです。地球の勝利はすでにほぼ確定で、野球で言えばあと一勝するだけでいいところまできているのです。

そうとでも考えなければスジが合わんわ、あんな話。そして〈彼ら〉が恐れているのは、もうひとつ、小牧ノブの〈力〉でしょうね。〈彼ら〉が月や〈ブルーサーチ〉を襲ってきたのは、どちらもノブがSCFの手に落ちたとき、その二回だけという話でした。やっぱりてんで弱いから、基地に直接攻撃なんてそれまでなかったんでしょう。

それがノブが捕まると、決死の覚悟で突っ込んでくる。これはそれほどノブを恐れているからだと考えるしかないのじゃないか。

ノブが連れ去られたのは、神戸のマスターを通じて〈彼ら〉のスパイに伝わっていたはず。だから〈彼ら〉は特攻してきた――そう見るのが妥当です。小牧ノブが宇宙に出るのを〈彼ら〉は何より恐れたのです。

だから平沢に護衛させた。おそらく、できることならば、〈彼ら〉としてはむしろノブを殺してしまいたかったのでしょう。

だがしたくでもできなかった。

その理由も簡単です。たぶん、ノブはクマムシのように、殺して死ぬ女ではない。ダイ・ハードなのです。真空中でも生きられて、百度の熱にもマイナス百度の低温にも耐えるのです。〈彼ら〉はそれを知っていた。もちろん銃やナイフ程度のものでは三秒で傷がふさがれておしまいですから、ノブを殺そうとするならばたとえば大蛇に丸呑みにさせるような手を考えなければならない。

しかしそれも無駄なのですね。大蛇の腹でノブが力を覚醒させてドバコーンとなるに決まっている。ノブを殺そうとする試みは必ず失敗するだろう。〈彼ら〉にとって最もあって欲しくない結果を招くだけだろう。それがわかっているために、平沢にギャラを払って護らせるしかなかったのです。

で、〈祭の夜〉の後で、平沢をクビにしますけれど、これもたぶん本当の理由は違いますね。〈クビにした〉のではなくて、〈平沢を雇い続けるカネがなくなった〉のでしょう。平沢にノブを連れ戻しに行けと言いたいのはヤマヤマだが、そのギャラが払えない。だから泣く泣くクビにしたんだ、あれは。

〈彼ら〉は実は、それほどまでに追い詰められていたのです。きっと巨額の負債を抱えて、西崎義展のように夜逃げしているか、それとも西崎義展のように警察に捕まって刑務所行きも避けられぬ状況だったのかもしれません。

きっとどこかに保存されてた貴重極まる〈コメート〉を、平沢に送るために盗んだ容疑です。前回のログに書きましたように、〈カーニバル・ナイト作戦〉は平沢とSCFの八百長でした。SCFが『こっちは〈F-16〉四機を出すヨ。お互い墜としも墜とされもせずネ』と言うのに平沢は、『えーそんなの、なんならやれんだ。〈F-20〉かな』と考え鎌倉で頼むと、『ワシはマッコイじいさんじゃないぞ』と言われてしまった。

戦闘機代のツケは当然、〈彼ら〉にまわされるわけです。〈ファルコン〉四機とガンファイトなら渡り合える機体として〈彼ら〉に考えられたのは〈コメート〉しかなかったのです。だから〈彼ら〉はそれを盗んだ。

雉(きじ)も鳴かずば撃たれまいに。結果として、〈彼ら〉は捕まってしまったのです。

そうとでも考えないとスジが合わんわ、あんな話。で、ノブですが、話の最後であの通りになりましたでしょ。ああいうことになることこそ、〈彼ら〉は恐れていたのでしょう。

実は地球には能力を眠らせているだけで、ノブと同じかそれ以上の力を持ったエスパーが結構いるのだと思います。〈カメキネシス〉といった力を持ったエスパーがいるのです。ノブのように物事から逃げてばかりのバカ女と違い、『宇宙開発、そして地球を護ることは何に換えても大切なことと思います』とシッカリした頭で言える立派な超人が光の速さでビュンビュンと宇宙を駆け巡るようになることこそ、〈彼ら〉が恐れたことだったのです。

〈彼ら〉はノブそのものはたいして恐れていませんでした。どうせもし戻ってきてもなんの役にも立たないのだから、北極星に突っ込んで燃え尽きてしまえばいいのです。

そして〈彼ら〉は完敗しました。〈ブルーサーチ〉へのあの攻撃が、最後の力を振り絞っての玉砕特攻だったのです。あの戦いのすぐ後で、SCFと〈彼ら〉の間で終戦協定が実は結ばれているのでしょう。もちろん、地球の完全勝利という形で……。

そうとでも考えないとスジが合わんわ、あんな話。ねえアナタ、そうは思いませんか」



……はあ。ずいぶんと長い話を……ええと、地球が異星人に狙われる話はそれでいいでしょう。それより、もともと最初の問いは、『あなたは誰かに狙われてると思ったことはないか』ですが。


作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之