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ヤマト航海日誌

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「はあ? 本題はそっちなの? それじゃあワタシは一体何をしゃべらされていたわけなの? ワタシが誰に狙われるんです?」



まあ、割と、一般的な話ですよ。こないだテレビを見ていたら、〈NOVA女講師リンゼイ・ワグナー殺害事件〉からもう十年になるんですってね。若い女というものは、あの事件の市橋達也みたいな男に注意しなければいけないでしょう。



「まあね」



前回のログにも書いたことです。和沙結希は沖田のような男に気を許すべきではなかった。沖田の命と結希の命、どっちが大事かと考えれば、結希の命に決まってますよね。死んだ方がいいやつが生きて、生きるべきが死んでしまった。あの結末はひどい悲劇だ。



「うん……でもわかりませんよ。結希も真空で生きられるかもしれない」



とにかく、前々回には〈女子高生コンクリート詰め殺人事件〉の話をしました。おれはこないだのテレビで初めて知ったんですが、〈ワグナー事件〉も実は監禁殺人だったんですってね。と言っても十数時間のことであったそうですが。市橋は彼女を縛って部屋に置けば、すぐにも自分を好きになってくれるものと思っていた。そうはならずに彼女が逃げようとしたものだから、首を絞めて殺害した。



「その話がなんなんですか」



いやまあちょっと聞いてください。事件がどうして発覚したかと言えば、彼女の友人が警察に行方不明の届けを出したからだそうです。『数日前から彼女の周囲をグルグルしてた〈イチハシ〉という男がいるんです。どうも怪しく見えたのですが、調べてみてはどうでしょう』と言葉を添えて。で、警察が訪ねてみると――。



「ははあ。スタコラと逃げ出した」



そう。悲劇ではあるのですが、その一方で『なんでそういうことになってしまったのだ』と思わずいられませんでした。市橋は彼女の友に顔を見られているのですから、彼女が行方知れずとなれば警察が自分を訪ねてくるとわかってよさそうなものです。そして彼女も、『今日はアイツのレッスンだ』なんて話を友人にしていたようですから、信じて待てば救助が来るとわかりそうにも思えました……まあそれは、言ってもしょうがないことですがね。

彼女が拉致されてから、警察がやってくるまで36時間ほどです。まあどうしてもそれくらいはかかるでしょう。早い方だと思いますよ。だからやっぱり友を信じて48時間待とうと彼女が考えていたならば……それより、連れ込まれる前に、電話で友に『今から市橋の家に――』と話すか留守電にメッセージを残すのを見せつけてでもおいたなら、と。テレビを見ていてそうしたこともおれは考えずいられませんでした。あの番組は市橋の異常性ばかり強調していたんですがね。

けれどもおれはそう思った。だいたい、若い女なら、常にそういう用心をせねばならないものでしょう。考えたら英会話の個人レッスン講師なんて、もともと危険な職業じゃないですか。ストーカーなどに極めて狙われやすいと言える。ましてや市橋なんてのは、誰が見たってひとめでヤバイとわかるようなやつなんだから。

そんなことも思わずいられませんでした。しかし、だからと言ったところで、あの事件は彼女の方にも責任や落ち度があったなどとはおれは言う気はありませんよ。用心が足りなかったことは罪でもなんでもない。悪いのはすべて市橋です。人権がどうのこうのと言う人間はなんのかんのと理由を付けて〈市橋こそむしろ本当の被害者である〉としたがりますが、それは最も間違った道です。市橋は過去に傷害事件を起こして捕まったこともあるというのに、彼女が行方知れずになれば警察が自分を疑うなどと思わず部屋から動かなかった。信じられないほどのバカだ。

『妖精作戦』のエイリアンの話とも通じるところがなくもないのではないでしょうか。〈惑星破壊〉なんて言ったら、『バカめ』と言い返されるのが確かにオチだ。自分達があせっていると相手に教えているのと同じ――そんなこともわからないほどエイリアンはバカなのに、『ならば降伏』と短絡的に叫ぶ沖田と榊はそれ以下のバカ。市橋達也レベルのバカ。要するに笹本祐一が市橋達也と同等のダニと言ってしまっていいのではないか。



「まあね。しかし、だからその話がなんだというのですか」



ですから、一般論ですが、男であれば誰でも女を狙うことがまったくないわけないですよね。普通は監禁や強姦といった手段は頭に浮かんでも決して実行しないだけで、彼女に近づくまっとうな道はないかと考える。あるいは、駅にきれいな女がたたずんでいて、切符の買い方も知らなく見える。声を掛けるとこれがなんと隣に越しにきた人で……なんていう空想をまったくしない男もいない。



「いえ、ワタシはそんな変な空想は一度もしたことありません」



今のはたとえばの話です。とにかくですよ。美人とお近づきになって、あわよくばオレのもの、なんていうような空想をするだけならば罪でもなければ異常なことでもないのです。別に恥じる必要もない。あんまり変な空想はちょっと気持ちが悪いですがそれでもただそれだけのことです。レイプや監禁、ストーカー行為に及んではいけないだけで、そんな手段で相手の心をつかむこともできないのです。



「珍しくマジメな話をしてるようだがアナタのことだ。どうせこれから途轍もなくくだらん話をする気でしょう。これはその前フリですね?」



おれはいつだってマジメだけどなあ。どうも誰かがおれを狙っているような気がするんです。



「はあ? アナタを? アナタなんかどこの誰が狙うのですか」



〈おれ〉と言うか、〈おれが出してる小説〉ですよ。それを誰かが狙っている気がするんです。



「アナタの書く小説なんか誰も読んじゃいないでしょうが」



それがそうなようでいて、そうでない気がするんだよなあ。なんか読むやつ読むやつみんな、みんながフォローしていくような感じなのに、他人(ひと)には『お前がいつか言ってた小説、どうした? へえ、読んでない。おれもやめた』なんて言ってるんじゃないかという、そんなようすがどうも伝わってくるみたいな……。



「わけわからん。具体的にわかりやすく説明できないのですか」



だからみんながお互い牽制し合いながら読んでいる気がするんですよう。『畜生みんな、読むな読むな。この小説はオレだけが読むんだ』なんてことを思いながら読まれてる気がするんですよう。おれのことを雉かリンゼイ・ワグナーとでもみんなが思っていて、ケーンと鳴いて飛び立つところを今か今かと待って狙い撃ってやろうと思われてる気がするんですよう。



「ぜんぜん具体的じゃない。アナタを狙ってどうするんですか」


作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之