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ヤマト航海日誌

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2017.1.26 市橋達也を山に埋める



あなたは誰かに狙われてると思ったことがあるだろうか。

それとも、地球が異星人に狙われてると思ったことがあるだろうか。



「それはおよそ荒唐無稽な〈杞憂〉と呼ぶべき空想ですね。そんなことを本気で考え年がら年じゅう心配するのは、西崎義展のような人間だけだと思います。ガメつく儲けて自分だけが利益をむさぼり、下に給料も払わない。そういう者が、『みんながみんなオレのカネを狙っている』という妄想にとらわれる……。

しかし、地球の資源は決して無限のものではありません。石油も鉄も採っていればいずれは尽きてしまうのですね。なのにどうして異星人が地球などを狙うでしょう。

ですが、たとえばタイタンです。石油の代わりにメタンが採り放題ですし、探せば鉄でもコスモナイトでもいろんな金属があるでしょう。異星人の星系にも資源豊かな天体がいくつもあるでしょうから、わざわざ遠い地球を目指して来る必要がどこにあるのか」



……あの、それは、移住とか移民が目的の場合ですよね。地球人の奴隷化が〈彼ら〉の狙いかもしれませんよ。



「はっ、それこそバカバカしい。地球を目指して宇宙を渡ってくるほどの科学力があるのなら、高性能のロボットを低コストで造れるはずじゃありませんか。なのにどうして人間の奴隷を必要とするのです?

西崎義展は人をタダでコキ使って『ダメになったら捨てればいい』という考えを平気でする男でした。しかし、そんなやり方は、決してうまくいくものではありません。人をムチ打って働かせれば量だけは多くのものが出来るかもしれない。しかし奴隷農業は畑を雑草しか生えない痩せた荒地に変えるだけだし、奴隷工業が生み出すのは不良品の山だけです。奴隷達は飢えや自殺で死んでいったり、暴動や反乱を起こすだけ。

それを力で封じても、何も得られやしないでしょうが。そんなこともわからないほど頭の悪い独裁者は、戦争しても弱いですから、こちらは頑張れば勝てるものです。

同様に、『地球の女を性奴隷に』とか、『地球人の脳ミソが不老長寿の薬になる』とかいう考えも、西崎義展みたいなやつだけ考えることと言えるでしょう。くだらん話でワタシの時間を無駄にしないでほしいものです」



……ええと、すみません、もうひとつ。ではこんなのはどうでしょう。異星人は地球人の宇宙進出を恐れて止めにやってくる。『すべての宇宙開発をやめて地球に閉じ込もれ。でないと地球を壊してやるゾ』なんて脅しをかけてくるとか……おれが高校生の頃、読んだ小説にそんなのがあったんですが。



「なんだ。珍しく『ヤマト』の話かと思ったら、また『妖精作戦』ですか。まったくもう……でもまあ、西崎義展みてえなやつの考えよりは、少しはマシかもしれませんね。

ですが同じことですよ。地球の科学がもっと進んで、もう少しで外宇宙に出ていける宇宙船が造れるかもしれないゾ、なんてとこまでいったなら、ひょっとしてそんなことがあるかもしれない。ねえ。もしかしてあと180年もしたならば、そんなことになってないとも限らない。〈有り得ぬ話〉と言い切ることはできないでしょう。

ですが今の段階でねえ。『早ければ2030年に火星へ』なんて、言う人間は言いますけれど、どうなんだか。二十年くらい前にも誰か言ってませんでしたか。『早ければ2010年には火星へ』だとか……行けるとしてもいつになるやら、わかったもんじゃないですよね。

なのに今からもう地球を恐れている。どんだけ心配性なエイリアンなんだという話じゃありませんか? おまけに、言うに事欠いて、〈惑星破壊〉だ? バカバカしい。脅しにしてももうちょっとマシなことが言えないもんかという話でしょう。そんなのを真に受けて『宇宙開発がそんなに大事なことなのかーっ!』と叫んじゃうような慌て者には、『バカめ』と言っておやんなさい」



……はあ……しかし脅しとは限らないかもしれませんよ。本当に地球を粉々にされるかもしれない。



「いえ、ありません。『それはまったくのハッタリだ』と断言することができます。『妖精作戦』のエイリアンは実はものすごく弱い。恐れるにはまるで足りない存在なのだとキッパリ言うことができます。〈惑星破壊〉なんて言うのがその証拠です。

考えてもご覧なさい。地球人を皆殺しにするために、なぜ地球そのものを粉々にせにゃならんのですか。やり方は他にいくらでもあるはずですよね。大昔に恐竜を絶滅させたと言われるような巨大隕石をひとつ投げつけてやるだけで、人を絶滅させるのに充分です。進んだ科学を持っているなら、すべての女を不妊にさせるナノマシン兵器なんていうものを使えてよさそうなものですし、原発やダムを次々に吹き飛ばして『オラオラ降伏するまでこれを続けてやるゾ』なんて手もあるでしょう。

いや、そこまですることもない。地球人類を降伏させるには、旅客機を一日一機無作為に選んで墜とすだけでいい。それをやったら誰も怖くて飛行機に乗れなくなってしまいますよね。〈彼ら〉の要求は宇宙開発の停止だけ。ならばその要求を、地球は呑むしかなくなってしまうのではないですか。

〈彼ら〉が利口なエイリアンなら、そのような手を使ってくるはずです。それがスマートでクレバーで、クールでインテンショナルなもののやり方というものです。なのにどうしてそうしないのでしょう。

答はひとつ。できないからだ、と結論づけるしかありません。〈彼ら〉はものすごく弱いので、地球に対して攻撃らしい攻撃をまともに仕掛けることもできない。〈ネコパンチ〉しか持ってないのだと結論づけるしかないでしょう。

だからこそ〈惑星破壊〉なんてことを言うのです。猫が毛を逆立てて『シャーッ!』とやるのと同じですよ。やたらにデカイこと言って威嚇しようとするようなやつが、実力持ってることなど決してないんですよ。

〈惑星破壊〉なんて通牒を送るのならば、それと同時に金星あたりを消し飛ばして、自分達に確かにその力があるのを見せつけなければなりません。なのに〈彼ら〉は口でそんなことを言うばかり。あるいはやはり金星にアルマゲどーんと隕石が落ちて、世界中の天文学者が『一体どうしてこんなことが。まるきりわけがわからない』と騒ぐようなことになれば、キーラーも平然としてはられないでしょう。しかしそんなことすらない。

おわかりでしょう。デモンストレーションのない脅しは脅しにならないのです。キーラーは『こんな脅しは黙殺あるのみ』と言ってしまって構わない。それがわからず喰ってかかる沖田や榊はどうしようもない〈大馬鹿野郎〉なのですよ。

〈惑星破壊〉なんて言うのは、実はなんにもできない証拠。『妖精作戦』のエイリアンはものすごく弱いのです。弱いからこそ地球を恐れる――そういう理屈になりませんか? 〈彼ら〉の力が強大ならば、地球を怖がる必要ないんじゃありませんか?

ね。そうでしょ。弱いんですよ。〈エイリアン・メッセージ〉はハッタリです。今まで無言であったものが、突然そんな通牒を送ってきたということに、あの小説はなっていますね? それはなぜかという疑問も、実は〈彼ら〉は弱いからだと考えれば容易に解くことができます。
作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之