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ヤマト航海日誌

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スタンレーの山越えは陛下のゴシンネン格別だった。辻政信は嘘をついていたわけでなく、それについては事実という。ゆえに〈ヤマト計画〉であり、無理と思っても誰ひとり『できない』とは言えないためにやるしかなかった作戦なのだと。だから辻が送られた。それが本当のことだった。日本人は本当からちゃんと考えて生きねばならない。《平成》の紙を掲げたブ男に、『それが天皇制度の顔なら、もう元号を使うのやめよう』と1989年に言うべきだった。



 昭和裕仁はウルトラマンだ。



そうだ。かつての日本人は、本気でそう考えていた。『天皇陛下は神であり、日本は神の国だから戦争に敗けるはずがない』と昔の日本人は信じていたと聞いても今の人間はピンと来ない。『そんなわけのわからぬことが本当のはずがない』と信じたいから歴史修正主義者の言う『天皇陛下と大多数の国民は戦争を望んでいなかった。すべては軍部の暴走だ』との嘘を受け入れる。

しかしもちろん、裕仁は自分を神だと信じていたし国民も皆そうだった。本当から考えよう。〈神〉と言うからあなたの心の装甲が弾き返してしまうだけで、要するにみんながみんな裕仁をウルトラマンだと思っていたのだ。

1945年3月、東京大空襲の夜に昭和裕仁は、『遂にこの日が来たか』と思った。この日のために大事にしてきた〈三種の神器〉。遂にこれを使う日が来たのか。

空の上には〈B-29〉の大編隊。まるで無数の十字架のような――地上の炎に照らされ赤く光を発しているように見える。

ア〜ア〜、アアア、ア〜ア〜。悪魔だ。しかし、逃げてはいけない。今こそ〈男の戦い〉を朕が見せるときなのだ。逃げてはいかん。逃げてはいかん。逃げてはいかん。逃げてはいかん。朕は第百弐拾四代天皇、昭和裕仁なのであるから!

と叫んで曲玉(まがたま)の首飾りを首にかける。するとそいつがピカッと光って、ドビュビュビュビューンと自分の体は40メートルに巨大化するとバカは本気で思っていた。小林よしのり描くところのおぼっちゃま君なやつであるから。そしてシュワッチと飛び上がり、〈鏡〉のビームで〈B-29〉でもなんでも墜とし、〈剣〉で空母でも戦艦でもみんな沈めてやれると思っていた。小林よしのり描くところのおぼっちゃま君なやつであるから。わかったぞ、〈万世一系〉の意味が! 朕を護ってくれている! 朕を見てくれている! ずっと、ずっと、一緒だったのですね、アマテラース!

バカは3月10日の夜まで、必ずそういうことになると本気で信じ込んでいたのだ。国民もまたバカだからみんなそう信じていたのだ。と、こう書いてやったの読めば君の心の装甲を一本の槍が貫くだろう。

ならんか。としたら、本当にバカだな。だから盗用も成功すると信じてんだろ。どうしようもねえな。

人間てのはそこまで愚かで浅はかなのだ。そして翌日、灰塵と帰した街を見ても、『まだなのだ』と考えた。この程度では神器の力は発動しない。広島に原爆が落ちてもまだだと思った。長崎に二発目の原爆が落ち、ソ連が侵攻してきたとの報せを受けるときまで思った。

動いてよ、と裕仁は、〈三種の神器〉に向かって言った。強く掴んで揺さぶり振った。動け、動け、動け、動け、動いてよ。朕を巨人に変えてくれよ。今やらなくちゃなんにもならないんだ。みんな死んじゃうんだ。だから、動いてよーっ!

しかし現実は、庵野秀明が作るくだらないアニメと違う。シンジ君の聖断で、日本は降伏することになった。

昭和の戦争の終わりは8月15日でない。ポツダム宣言受諾はその前日の14日であり、その日のうちにラジオで公表されていた。明日は陛下の御言葉があります。ラジオの前で待ちなさい。

で、そう聞いてやっぱりみんな、思ったんだね。陛下の御言葉があるだって? そうか、日本が敗けたなんてやっぱり嘘なんだな。明日ラジオをつけてやったら、シューマンのピアノ協奏曲が「ジャン!」と響いて、陛下がモロボシダンの声で、


「皆さん、朕は宇宙から来たウルトラ124なのです」ウン知ってるよ。「堪え難きを堪え、凌ぎ難きを凌がせ申し訳ありません。ですが神器の力を発動させるには、仕方のないことだったのです」ウン、そうだと思っていたよ。ちゃんとちゃんとわかっていたよ!「皆さん、朕の戦いを刮目して見てください。東の空に宵の明星が輝いたら、それが朕だと思ってください」イヨッ、待ってましたあっ!


と、そういうことになるとの思いにまだしがみついてたわけね。この日誌を読んでる君が、明日がすべてを盗める日だと今この時も思ってるように。残念ながら人間はそこまで哀れな生き物なのだ。しかし翌日、ラジオから流れる声にみんなが思ったのは、


「何これ。気持ち悪い……」


そして裕仁は〈人間〉となり、〈三種の神器〉は白黒テレビと冷蔵庫と洗濯機、さらにカラーテレビとカーとクーラーを指す言葉になったのだった。テレビに色がついたとき、日本にとっての戦後は終わった。そして『ウルトラQ』の後に、『ウルトラマン』が放映された。

初代ウルトラマンの顔は昭和裕仁そっくりである。それは当然のことである。誰でも昭和裕仁の若い頃の写真を見れば、『なんかに似てる』と思うでしょう。「ウルトラマンだよ」と言われたら『ああそうか』と思うでしょう。

それは当然のことである。カラータイマーが曲玉で、変身に使うライトが八咫鏡(やたのかがみ)、スペシウム光線が草薙剣(くさなぎのけん)だ。〈戦後〉は結局終わっておらず、天皇制度ある限りいついつまでも引きずり続ける。

それが当然のことである。小林よしのりのマンガの中ではあの《平成》のブ男がまるでハヤタ隊員の顔――それも当然のことである。

天皇制からロクなものは生まれない。『新世紀エヴァンゲリオン』も天皇制の有毒土壌から生まれたアニメなのであるから、ロクな結末を得ることはない。ATフィールドは心の装甲。だがそんなもん、実は葉っぱ。みんな、『ヱヴァ』の新作の完結編に期待しても無駄だよ。



作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之