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ヤマト航海日誌

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2019.7.5 三十年ぶり金パチ戦星



「西の空に明けの明星が輝く頃、ひとつの光が宇宙に飛んでいく。それが僕なんだよ」と言ったのがモロボシダン。『ヴィナス戦記』が今年三十周年ですか。あのブサイクな顔とともに三十年。長いような短いような……。

ひょっとするとおれが消費税込みでない入場料で見た最後の映画があれかな。この日誌にたびたび書いてる下妻にいた最後の頃で、例によって前日の昼に何本もハシゴして、夜に特別オールナイトで、その翌日の有楽町マリオンだった。『ヴィナス戦記』は公開二日目。だったんだけど、おれのすぐ後ろの席に座ったのがなんだかわけのわからない小学五年くらいのガキで、上映中ずっとずっと、


「ピキュン、ピキュン、プシュプシュ、ボボン、ガガガガーン」


なんてことをつぶやき続ける。おれは何度も振り返って、「静かにしてくれ」と言ったんだけど、黙るのはほんのちょっとの間。二分もするとまた後ろから、


「ピキュン、ピキュン、プシュプシュ、ボボン、ガガガガーン」


とまた始まる。別にアクション場面とかいうわけでもなんでもない。ただひたすら『グラディウス』とかなんとかいったゲームのエア・コントローラを操らずにはいられない――そういうガキに、おれはあの日、後ろに座られてしまったのだ。〈ゲーム脳〉というのは下劣なマスコミが、『バカになれバカになあれ』との呪(まじな)いを電波や活字に込めるために勝手に造った言葉に過ぎず、まともな理論としては認められていない、なんてなことを訳知り顔で言うやつが君のまわりにもいるかもしれんが、しかしあのガキに関しては、おれが診断を下してやろう。あいつはゲーム脳だ。

なんて思い出もあるんだけど、ねえ、おれ、実は、割と好きなのよ、『ヴィナス戦記』。ケーブルTVでやんねえかなとずっと思っていたんだよ。『クラジョウ』やって、『アリオン』やったんだからさあ。HDでやれよ。『ヴィナス戦記』をよ、とずっと思っていたんだよ。

なんでやらねえのかなあ。まあ、やらねえか、あんなもん。と、ずっと思っていたんだよ。そしたらそしたら、このあいだ、テレビで『三十周年記念特番』てえのをやって、見たらそれは安彦がこれまで封印してました、と。

えっ、なんで? おれ好きなのに。待っていたのに。と思ったが、どうやら『ヴィナス』は安彦にとっての〈ミッドウェイ海戦〉で、そこで敗けたと感じたためにいさぎよく降伏してたということらしい。いさぎよいのはいいことである。

でも、ちょっといさぎよすぎる。『ヴィナス戦記』のDVDは発売されずじまいだったのかな。それはちょっといさぎよすぎる。



 しかしおれは『ヴィナス戦記』のDVDを持っている。



いや、もちろんちゃんとしたもんじゃなくて、ずいぶん前にVHSの中古を見つけて安く買ったのをおれ個人で楽しむためにRディスクにダビングしたもんだから、画質は悪い。悪いけれども、持っているのだ。PC画面で見るくらいなら支障ないだろというものを。だからこいつを動画投稿サイトに出せば……。

完全なブラック行為だ。ソレイホ刑事に捕まるからもちろんやりはしないけれども、でももしやって見るのがいたら、そいつは、『おお! こりゃすげえ! こんなんでなく高画質のでっかいテレビ画面で見てえ!』と思うんちゃうかな。『ヴィナス戦記』はね、いいところはいいんだよね。ダメなとこダメだけど。

『ヴィナス戦記』は何が良くなかったか。

話が暗い。既に古い。主人公がなんか日本の70年代。不良で、いつもイライラしてるが、なんでそんなにイライラしてるか見てもよくわからない。金星で戦争が起きてるらしいが、なんで戦争が起きているのか見てわからない。

〈金星戦記〉と言うよりも、『三年B組金八先生』という感じだ。舞台そのものがやはり金星と言うよりも、あのドラマ第一期のロケ地のようだ。ツッパリどもが手に手に鉄パイプを持って、他校の不良と隅田川の河原で殴り合ってるところに、大人のヤクザがトラックに乗って押し寄せてきて火炎ビンと機関銃での〈戦争〉を始める。ガキども、出ていかんかい!という、そういうものを見せられているようでもあるが、この人達が一体なんで暴れてるのかてんで見ていてわからんのである。主人公は「軍に入れ。戦闘メカに乗って戦え」と言われて「イヤだ」と応えるが、そこでどうしてゴネるかさえも見てわからない。

『ヴィナス戦記』は完全封印されてたわけでもないはずである。書いた通りにVHSが出ていたし、公開から一年半後に池袋の小劇場で土曜特別オールナイト『ガンダム 逆襲のシャア』『マクロス 愛・おぼえていますか』『オネアミスの翼』『パトレイバー劇場版(1)』そして『ヴィナス』の五本立て、なんていうのをやったりして、おれはそこでまた見たりもしている。おぼえてい〜ます〜が〜、でもやっぱり見てわからない。

VHSの中古を買って見直して、DVDに焼いてまた見直して、やっぱり全然わからない。『ガンダムオリジン』もダメでしょ。見てわかんないでしょ。安彦がやればそうなるよ。見ているやつはロボットが動けばそれでいいんだろうけど。バンダイはブルーレイよりプラモが売れればいいんだろうけど。

けれども見ても話がサッパリわからんようなものはダメだ。

だから『ヴィナス戦記』はダメだ。なんだけれども、あれについては、ええねん、別に映画ちゃうから。『ヴィナス戦記』はあれでええねん。主人公は一体何が気に入らないのか、いつもイライラしてるけれども、おれだって、何もかもが気に入らないからいつもイライライライラしてる。平成の三十年間ずっとイライラしてた。『敵中』の投稿を始めるまではいつもパチンコを打っていた。

で、勝つときはいいけれど、敗けたときにはその辺の物をガンガン蹴飛ばしていた。おれは基本、何をやってもすぐうまくなる人間なのでトータルでは勝ってたけれど、実はもう何年もパチンコを打ってない。

毎日毎日打ってたおれが。いま打ったら負けるな。トータルでは負ける。そしてどんどん負けがこんでくことになる。と思うから打たないんだが、戦争で戦闘メカに乗って戦えばいつか死ぬ。それはイヤだとは誰でも思う。

それはわかる。しかし『ヴィナス戦記』となると、まだやっぱりわからない。笹本に脚本を書かせたのが間違いであったことに疑いはなく、『妖精作戦』の榊と沖田と平沢がSCFの何がそんなに気に入らないのかわからないのと同じように、主人公が戦いを拒む理由がわからないのだ。

太陽系宇宙軍SCF。超カッコいい! 入りてえ! 入れるものなら入ってみてえ! 佐官になっても「屁みたいなやつ」と呼ばれるようなどっかの宇宙軍とは違う! 後方支援部隊でいいよ。〈エリアル〉とかいう戦闘機をいじる整備員でいい。オンボロ貨物機〈グーニーバード〉を飛ばす荷物運びでいいよ。異星からの侵略を地球が受けてるんだったらオレにも何かさせてくれえ! と思うのがまっとうな男の子なんちゃいまんの。なのになんでこの三人は、そういうふうに思わんの。

と、『妖精作戦』は、読みながらにずっとそう思うしかない小説だった。
作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之