小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ヤマト航海日誌

INDEX|125ページ/201ページ|

次のページ前のページ
 

2017.11.20 サンダーバー道の極意を見たり



『新世紀エヴァンゲリオン』というアニメはまるで成田離婚だ。昭和末期のバブルの時代に、オヤジギャルとミツグ君が出会ってしまって恋が始まる。男はウジウジ、女は高ビー。樋口真嗣が絵コンテを切った回だけ盛り上がり、このアニメはイケルんちゃうかと皆が勘違いしてしまうが、後が見ちゃいられない。ウダウダがピークに達した第十九話目で、遂に男が「オレはお前の亭主だ!」と怒鳴って新妻に暴力を振るう。

しかしもちろん、それはやっちゃいけないことだ。問題の解決にならず、悪化させるだけだからだ。帰りの機内で彼女は口を利かなくなり、成田に着いたところで離別。男はセラピーに掛かって言う。「教えてください、ボクはどうしたらいいのでしょうか?」


「それは何が悪いかと言えば要するに、のび太はジャイ子と結婚するのが正しい未来の成り行きですから、ロボットの力なんかで無理に変えてもダメということなんですね。決して、決して、のび太をしずかと結婚させてはいけない。やったところで最後にのび太がむせび泣きながらしずかの首を絞めようとして、『気持ち悪い』と言われるのがオチなのですよ」


そんなわけでまた引き続いて今回も庵野秀明の話である。見たよ。地上波で。『シン・ゴジラ』。まあ一応ね。録画しといて、セリフは全部まったく聞く気がしないから再生速度を1.3倍にしてやって、石原さとみが出てきたとこからさらにビュンビュン飛ばしながら。

結局おれがまともに見たのはゴジラが街を破壊する特撮シーンだけとなったが、なんでえありゃあ。まるで『サンダーバード』と言うか、ほとんど『ハロー! マイキー』じゃねえかよ。ゼロ年代の初め頃に深夜でやってた、マネキンの静止画劇に声付けたやつ。

俳優は突っ立ってるだけでいい。セリフは早口の棒読みでいい。『ハロー! マイキー』だ。おれ、結構好きだったんだ。高ビー女が「おほほほほ!」と高笑いなんかしてみせても、マネキンだとあまり不自然な感じがしない。



 生身の人間でやったら不自然極まりないじゃないか。



だけどやっぱり『マイキー』よりも『サンダーバード』。その第一話『SOS原子旅客機』。まるで全部があれそのものという感じだな。『新幹線大爆破』じゃないよ。『SOS原子旅客機』だよ。あれは。どこをどう見ても。まるで金太郎飴のように、どこを切っても『SOS原子旅客機』。あれそのものじゃないですか。

と、おれが言ってもみんなキョトンとしてるだろうね。誰も『SOS原子旅客機』を見てないか、見たとしても忘れてんだろう。けれどもおれはあれを昔に都写美の地下映像展示室てえところで見たんだ。それでそのとき、なんかけっこういいものを見たような気になってしまって、そのおかげで今もよく覚えてるんだ。

なんでだろうな。〈お話〉なんかまったくありゃしないのに。やはり見たのが恵比寿の都写美ってえところがよかったんだろうか。

『シン・ゴジラ』はおれにはちょっと見ただけでわかる。あれは実は〈ゴジラ〉じゃない。『サンダーバード』第一話『SOS原子旅客機』のリメイクだ。着陸できなくなってしまった原子力飛行機を安全に地上に降ろす話を、原子力怪獣を安全に退治する話に変えた。それだけだ。石原さとみ演じるナントカはペネロープ嬢で、男はスコットやバージルや、その他ナントカカントカだ。〈スーパーマリオネーション〉でやれば人がけっこう騙されてあまり不自然に感じぬものを、生身の俳優使ってやるもんだからすげえ違和感ありまくり。

人間の役は、ほんとは全部、四頭身の人形使って撮ることを想定した脚本なんだろ。出てくる人物はどいつもこいつも、椅子に座るか突っ立ってるかでほとんど歩かないけれど、それでいいものと思ってるんだろ。ペネロープだけ頑張ってクニャラクニャラと動かすけれど、それも上半身だけという――。

『サンダーバード』だ。男はみんな、手をパタパタに首をクリクリと動かすくらいの動きしかしない。『サンダーバード』だ。でもってみんな、口ばかりがパクパクと動く。『サンダーバード』。ああ、これこそが『サンダーバード』。

なんで生身の人間でやるんだ! 庵野が作る『ゴジラ』なんて、『サンダーバード』にしかならない。考えてみりゃそんなもん、見る前から気づいていて当然だった。かもしれないけど、いや、でも、まさか、こんなことをほんとにやるとは……。

登場人物は人形だ。セリフは状況の説明だ。シーンは段取りで淡々と進み、最後にメカがジャンジャカジャーンと音楽を背景に活躍する。

確か、やっぱり百メートルもあるような巨大ワニを退治する話もあったぞ、『サンダーバード』。あれだ。あれのリメイクなんだ。余人の眼は騙せても、おれの眼はごまかせぬ。ひとめでわかるわ、『シン・ゴジラ』が『サンダーバード』のメソッドで撮られた映画であることなど!

サンダーバー道の極意など極めたところでしょうがなかろう……でもやっぱり、ワニの話より『SOS原子旅客機』。あれのリメイクに違いあるまい。おそらく、きっと、その昔にみんなで『サンダーバードFAB』でも見に行って、その後、岡田斗司夫あたりに、


「けど、〈原子旅客機〉って、とんでもないアイデアですよね? スリーマイルやチェルノブイリを飛ばすようなもんじゃないすか。そんなのやっちゃいけないとわかりそうなもんなのに」


なんてなことを庵野が言ったら、対して岡田が、


「いやいや、実はあんな飛行機、本当に造ろうとした計画があって、実験機まで飛ばしてたのよ。アイゼンハワー政権時代のアメリカでね。核と言えばアイゼンハワー。アイゼンハワーと言えば核。それが50年代のアメリカよ。〈コメット〉って最初のジェット旅客機が飛ばすたんびに墜ちてた時代に、『次は原子旅客機だ!』とアイゼンハワーが叫んじゃって、原子炉積んだ飛行機を空にビュビューン」

「マジっすか! 墜ちたら大変じゃないですか!」

「大変て言や大変だけどウランじゃなくてトリウムを〈燃〉やす原子炉だから、飛散物の半減期はグッと短い。だからあの〈スリーブイリ号〉の話もね、きっと裏の設定では、たとえ救助に失敗して大惨事になったとしても空港は二、三年でまた使えることになっているんじゃないかと……」

「ほうほう」


と、そんな話をしていたりして、それが実はあの映画の元ネタだったりするんじゃねえのか? やりそうなこっちゃ。庵野もそうだが、むしろ樋口真嗣の方が。

庵野や樋口が『SOS原子旅客機』を知らんわけない。〈エヴァ〉の発進シーンだって『サンダーバード』のパクリなのに違いないし、あれの第五話『人の造りしもの』のロボット〈なんとか号〉も飛ばすたんびに原子炉危機を起こす旅客機そのものだよ。碇ゲンドウはシンジの〈パパ〉であると同時に〈悪人フッド〉であるわけなんだ。

絶対そうだよ。ねえ君、嘘と決めつける前に、いっぺん『SOS原子旅客機』を見てご覧なさい。おれの見立てに間違いないとわかりますから。
作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之