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女子外人寮

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新入社員をクビにしろ


俺の後から、入った男がいる。
これと言って特徴は無い男だ。40歳程だろうか、営業志望で入社してきた。
最初は工場の内容を覚えるとのことで、現場研修と称し縫製ラインを経験させられていた。
真面目では有るが、前職が間接部門勤務で、工場での労働は経験がないらしい。作業がぎこちないのだ。
訊いてみると妻子が有り。まだ子どもが小学生と幼稚園だと言う。

どうしてこんな会社に来たか訊きたかったが、自分と同じく、雇ってくれるならどこでもいいと思ったのだろうと想像できて訊かなかった。

彼を観察していると、とても営業ができるとは思えなかった。大人しくて物静かだけれど、周りに積極的に声を掛るタイプではない。作業でもテキパキやれるような男でもなかった。彼も勤め先をリストラで辞めざるを得なかったという。

社長は気まま男で趣味で人を雇う。そうとしか思えない。会社はギリギリなのに景気が良かった頃の調子で人を雇う。
俺と面接した時も自分の会社の話ばかりして、俺のことは殆んど訊かなかった。息子である専務や工場長もワンマンな社長には一言も口を挟まない。言っても仕方がないのだ。どうせ聴かないのだから。

社長が俺に言った。
「あの営業志望の山崎を断れ」と。
俺は耳を疑った。山崎をクビにしろってことだった。入って二カ月そこそこの俺に、俺より後から入った男を断れって言うのだ。自分で面接して決めたのに。
俺は一瞬、間を置いて「分かりました」と答えた。
東京営業所で働く唯一人の営業マンが気に入らないので、本当はクビにしたかったのだ。あの厚化粧のミニスカ中国人を愛人にした間宮部長だったから。

午後の休憩時間中に食堂で山崎を探した。一人で4人掛けのテーブルにちょこんと座る山崎の傍に俺は近寄り、彼の横の椅子をひとつ空けてテーブルの短手に座った。彼と斜めに向き合ったのだ。

「少しは慣れましたか?山崎さん」
「ええ、まだ皆さんに迷惑ばかりかけております」
「俺もここに来て2ヵ月ちょっと。あなた、ぶっちゃけ、どう思う?この会社」
「・・・」
「ストが有ったり、資金繰りが苦しいってことは感じてるよね」俺は彼の顔を覗き込む。
「・・・はあ・・・」俯いて俺の顔をしっかり観ない。
「山崎さん、あなた、これから、どうしたい?」
「・・・やっと就職できたので、取りあえず頑張ってはいるんですが・・・」と元気なく答える。
「俺、もうじきここ辞めるんだ・・・内緒だけど・・・」俺は声を小さくして彼にだけ聞こえるように身を乗り出して言った。
「キミは糸篇の仕事、知らないだろ。前職が家電関係と聴いてるけど。それにこの会社ワンマン社長が年寄りだし、専務も長男らしいけど・・・いつも社長と揉めると、専務は辞めるって平気で俺達の前で言うし・・・。社長も倒産したらどうなるか知ってるだろ!って専務を脅している。こりゃダメだよ。俺みたいに一人身でも困るけど・・・キミは妻子が有るんなら、早めの見切りをつけた方がいいと思うよ・・・東京の営業マンはクビになるんだから、引き継ぎもいい加減かも知れないし・・・」俺はぼそぼそと、彼の態度を窺いながら、独り言のように言った。
「そうですか・・・考えてみます・・・」彼は最後に僕を見つめてポツリと答えた。

彼が出社しなくなったのは二日後だった。
もう、迷っていた矢先に、俺がとどめを刺した格好になってしまったに相違なかった。


 - 続く-
作品名:女子外人寮 作家名:桜田桂馬