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女子外人寮

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言葉が解らないなら


ドスンと背中を蹴られた。
こんな事するかよ、こいつらは!
運転席の後ろから、シートを思いっきり蹴っ飛ばしやがった。
俺は、驚いたのを隠し、無言で車を止めた。

俺が運転していたのは、9人乗りのワゴン車だった。
古くてもう軽く15万キロ以上は走ったポンコツだった。
蹴った奴は誰だか解らない。運転席の後ろに乗っていた、だれかだった。
はっきりしている事は、俺以外は女だった。そして女達は出稼ぎに来ている中国人研修生だった。
研修生とは名ばかりで、実際は外界と遮断した寮に住み、通訳と称する黒縁メガネの中国人女に監視され、1日10時間も働く縫製労働者だった。

俺は全く中国語が解らない。
けれど仕事が終わった午後5時、3キロ離れた外人女子寮まで送る羽目になった。
9人定員のワゴン車に13人も乗って来る。運転席から振り返り、俺は彼女達に全員で9人だから、5人は後にしてくれって日本語で指を使って説明した。
みんなポカーンとしている。まだ日本に来て1年未満で、日本語に慣れていないのか、日本語を習ってこなかったのか。それとも解らないフリをしているのか。

俺の隣、助手席に座った女がいる。ほんの少し日本語が話せる。彼女に「全部で9人だけ、だから5人はあと、あとから!」って俺は言った。
彼女は「ダイジョウブ ダイジョウブ」と言って、両手を下げてヒラヒラさせる。後ろの女達もダイジョウブと合唱する。女達は早く寮に帰りたい。後の便になって20分送れるのはイヤなのだ。

俺は激怒したふりをして、「お前達はダイジョウブでも俺は警察行きだ。勝手にしろ!」と言って運転席から飛び降り、ドアを思い切り強く閉めた。
バーンと大きな音がして車が揺れた。

俺は車から離れ、女達がどうするかを見守った。降りなければ運転しない気迫があった。
車の中に強いグループの女が残り、5人はしぶしぶ寮に持って帰る内職の風呂敷包みをそれぞれ手にして、車から降りた。

発車の時、女達は怒っていた。俺に対する怒り、日本人に対する怒り、それを背中に感じる。

「シートベルトをして!」俺は運転席から立ち上がって言う。

女達は一向にシートベルトをしない。
もう一度「シートベルト!」って叫ぶ俺。

言う事を聴かない女達。
また言う。
「ダイジョウブ、ダイショウブ」

こいつらは、法律を知らない、おまけに人の言う事を聴かない。俺は車を発車させた。
そして10メートル程行った所で安全を確かめた上
ガクンと急停止させた。

女達は前につんのめり、乗っている女同士や座席にぶつかった。

その腹いせに
俺の座席を
蹴りあげた奴がいたのだった。

こんな所に
俺は就職しちまったのだ。

作品名:女子外人寮 作家名:桜田桂馬