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料理に恋して/カレー編

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         6

 友達を作るように
 クリームコロッケを作る。

 味見をしなくても
 いい出来なのが匂いで分かる。

         *

 駆け出したくなり、
 駆けっこのポーズ。

「いいのが出来ましたよって」


         7

 飛行船なんて、
「見るの久しぶり」

 うちは口を開け、見上げてしまう。
 キャンパス上空を
 ふんわりふんわり。

 よだれを拭ってから、
 見上げたまま、
 飛行船をとぼとぼ追い掛ける。

 日の暮れる京都まで来ていた。

「なんてね」

 うちは早回して、
 関大キャンパスに戻る。

 でないと、息ができない。


         8

「今日はいいことばっかだったから、
 ここらでつまずいとこ」

 うちは学生会館の
 屋上庭園へ階段を
 わざと踏み外す。

「これでチャラにして」
 と神様にお願いする。

 雲がその形を変えて、
 答えてくれる。


         9

 その日の晩は
 気持ちがカレーになる。


         10

「見た目はきれいで可愛いけど、
 すけりんって、喋ると、
 バカっぽいのよねぇ。
 この大学の他の学生まで
 視聴者にバカだと思われてしまうわ。
 スポーツ入学って、
 おでこに貼ってて欲しいわ」

 加奈子のいい聞き役にされていた。
 断れない弱さがうちにはある。

「黙って、スケートだけ
 滑ってればいいのよ。
 見た目はいいんだから」
 加奈子は滑り止めで
 この大学に入っていた。
 卒業した高校の方が
 お母さん方にはびっくりされる。

「大学名を聞かれて、
 自慢できるほどじゃないけど、
 恥ずかしくもない程度」
 そう言って、加奈子は
 うちをマジに見つめる。
「第一志望?」
 うちはこくりと頷く。

「一浪して、せめて早慶か、
 神戸大に行こうかしら」
 加奈子がしたり顔になる。
「ねぇ、一緒に浪人しない?」
 勝手に手を取られ、握手される。
「さすが物分りがいい。
 決まりね、親友」

 いつ、親友になったの!
 うちはひしゃげる。


         11

「お父さんが京大の医学部で、
 お兄さんが同じとこ落ちて、
 東大の理?だったよね」
 一応、こくり。
「気が合うよねぇ、中浜とは。
 相性がいいのよ」

 その後は
 いい聞き役にされていた。

 ぴーひゃら。
 と吹く笛が欲しい。


         12

「うちだって、喋りたい。
 愚痴りたい。
 しょうもない話だって、
 ふんふん聞いて欲しい」

 批判やアドバイスは要らない。
「欲しいのは共感だけ」
 女の子はみんな、そう。

         *

 高三では同じクラスで、
 少しは話したけど、
 仲がいいってわけじゃない。
 入学したてで、
 まだ友達がいないから、
 昔の顔見知りってだけで、
 近付いてくるだけの気がした。

 ぴーひゃら。

 加奈子の成績はよかった。
「彼女からすれば、
 不本意なのかも」

 うちは十分、嬉しいけど――。

 ぴーひゃら。


         13

 今までにない新しいモノサシが
 キャンパスに落ちていた。

 うちは素通りしては
 突如、Uターン。

 拾ったモノサシで、
 空の雲を計ってみる。

 自分の鼻を計ってみる。

         *

 拾ったモノサシには
 お料理の新しい評価の仕方が
 息づいている気がする。

「おいしい」
 とか、
「体にいい」
 とか、
「見た目がきれい」
 とか以外の、

 お料理の新しい評価、
「新しい役目」


         14

 小麦粉に、
 お塩をパッパ、
 水を五〇
「シーシー」

 手でこねこね、
 打ち粉をパッパ。

 ガスの火、ボッボ、
 生地が、ムクムク。

 サクサク、チャパティ、
 お口がパクパク。

 うちは幸せに
「とーろとろ」

「おーとろとろ」


         15

「雷様が一番」
 カレーの隠し味には――。

 うちは雷を待つ。

 窓を開け、
 雷を受ける鍋には
 試作のカレーが
 ほっかほっか。

 雷が聞こえる。

 うちは耳を澄ます。

 お腹から聞こえる。