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短編集『ホッとする話』

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「梅雨が開けたら次の仕事じゃ」
おじいちゃんはそう言ってふてくれぼうずの服を剥ぎ取ると、中から現れたのは、細長い紙の一本足を付けたガラスの風鈴だった。

「わぁ――」
私は思わず声が漏れて、ふてくれぼうずみたいに尖らせた口が自然と開いていた。
「白い布に隠れて正体が分からなかった」
「これで暑い夏も涼しく感じるじゃろう」

 確かこれは仏間の縁側に掛けていた風鈴だ。私は、この数日を振り返るとおじいちゃんがソワソワしていたのは、タネ明かしをしたくてしょうがなかったんだと頭の中でつながった。それが分かると面白くなっておじいちゃんに向かって笑ってみせた。
「ありがとう、おじいちゃん」
「外遊びもエエけど、たまには家で勉強するんじゃぞ」
「うん」
 
 そう言い残しておじいちゃんは部屋に戻っていった。
 外遊びもいいけれど、外に出たら風鈴の音は聞こえない。私は服を脱ぎ捨てたふてくれぼうずの足を持って、一度だけ内側からぼうずの頭を叩いてやるとリーンという静かな音が部屋に広がり、温度が少しだけ下がったような気になった――。

   * * *
 
 お昼は友達と暗くなるまで外で遊んだその日の夜、食事とお風呂を済ませた私は、机に座って鉛筆を口に挟んでいた。
 開けた窓の網戸の向こう、目の前にある大きな蔵をかわして部屋に柔らかい風が吹き込んでくる。私は今まで宿題以外に開けることがなかった教科書を開けて、何かを読んでみようという気になった。
 すると、窓のところで夏仕様のふてくれぼうずが私を応援してくれている、そんな気がした――。

 音を聞いて窓の方に目をやると、無表情の彼が風に揺られてそよそよと立ち泳ぎしている。

「やっぱり君はこうでなくっちゃ」
 あることを思いついた私は、透明のガラスの頭に顔を書いてやった。