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短編集『ホッとする話』

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 以来私の部屋の窓にはふてくれぼうずがぶら下がることになった。雨が入ってくるから、閉めた窓の内側で風に揺れることなくこちらを向いてふてくされている。このまま雨は止みそうもないから、私も鉛筆を口に乗せてふてくれぼうずと同じ顔をしてにらめっこしてやった――。

  ノ ヽ
   ・ ・
    3

   * * *

 ふてくれぼうずの効果はというと、これが顔と同じでやる気がない。雨がゆるくなったかと思えば、しばらくすると強くなる。
 次の日は雨が止むには止んだけど、外遊びができるほどの天気ではなくて、学校に行くには傘が必要だった。帰るまでは持ちこたえたけれど、家に変えるとまた降り出した。

 顔の表情と一緒でなかなか満足の行かない仕事っぷりに私もふてくれぼうずと同じ顔になった。
「おい、ふてくれぼうず。何とかしてよぉ。私はお外で遊びたいんだよぅ」
私の満足行かない結果を気にしたのか、そう問いかたら口は尖ったままで、プイっと窓の方に顔をそむけた。

 とはいうものの、おじいちゃんが気を遣って作ってくれたふてくれぼうず。ふて腐れた顔はしてるけど、その仕草と表情が何ともいえず、いつの間にかその顔に愛着がわき始めていた。

   * * *

 次の日も、そのまた次の日も雨が降ったりもしくは雲が厚くて外では遊べなかったり、私にとってはストレスのたまる日々が続いた。

 そんな私のヤキモキとした気持ちは、最後に町を台風が通り抜け、田んぼや畑に被害を与えないくらいに水浸しにしたあと、次の日の朝は雲ひとつない暑い暑い朝がやってきて、ようやくカラッとした朝を迎え、窓を閉めて寝ていた暑さに自然と目が覚めた。

「おお、やっと仕事をしよったな」
 そんな晴れた朝、おじいちゃんが私の部屋を訪ねてくると、私ではなく窓にぶら下がったふてくれぼうずを見て声を掛けた。
「でも、お前さんは麻衣子を何日かヤキモキさせてしまったのう」
「でも、ふてくれぼうずは仕事したじゃん。納期は遅れたけど」
 ふてくれぼうずは遅れたけれどちゃんと仕事は果たした。愛着のわいたその顔に、おじいちゃんのダメ出しに対して思わずフォローを入れていた。

「いいや、現実の社会は厳しいんじゃ」
おじいちゃんはそう言って、ふてくれぼうずを手に取ると一瞬怖い笑みを浮かべた。
「ルールはルールじゃ。処分せねば……」
「あっ……」
私が止めようとするけど間に合わず、おじいちゃんはふてくれぼうずが着ている布に手をかけ、処分が執行された。