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短編集『ホッとする話』

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八 発車オーライ! 26.12.1



 晶子(しょうこ)はハンドルを握るたび、緊張と苛立ちが交錯する。

 夫のこだわりで建てた念願のマイホーム。それは大きな家で設備もこだわったので住むには快適で満足する生活がそこに待っているはずだった。
 しかし、家は確かに快適であるが問題は立地にある。人里離れた片田舎、どこへ行くにも自動車という文明の利器がどうしても必要なのである。駅まではバスで30分、バスは一日行きと帰りの4本で電車もそれに毛が生えたほどの本数。最寄のショッピングセンターだって似たような距離のところにあって、コンビニなんてあるはずもない。
 都会育ちで乗り物を運転する機会がそれまでほとんど無かった晶子にとってはこれが辛い。
 免許は持っているが筋金入りのペーパードライバー。もちろん免許証はゴールド、ここに来るまではただの身分証明だった。
 今でも必要が無い限りは運転はしないのだが、なかなかそうもいかず子どもの送り迎えや買い物で夫がいないときは仕方なしにハンドルを握る。そんな生活を10数年続けるうちに、決して上手でないにせよ人並みの運転はできるようになった。
「はぁ……、よし。今日もがんばろう」
 晶子はエンジンを掛けて一人そうつぶやいて、夜の田舎道を駅に向けて車を進めた。

 行き先は最寄りの駅。夫の幸仁の迎えだ。
 夫の幸仁はバスの運転手。職業運転手だけに運転は上手だ。晶子にとってはこれが厄介で、夫を助手席に乗せたときがここでの生活の一番の苦痛である。
「ハンドル切るのが遅い」だとか「信号、注意」だとか横に乗られるとまるで教習車に乗っているかのように指導され、いつもの運転が出来ないのだ。

 確かに、夫の運転は申し分なく上手だ。二人で出かけるときは運転するのはいつも夫だ。どんなに長い距離でも、どんなに狭い道でも彼は何の苦にもならず車を自分のからだの一部のように操る。夜の長い距離を走っている時晶子は大概眠ってしまうのだが、そんなことは全く気にもならず幸仁は目的地まで一切の不安を与えずに人を送る。
 「運転の上手な人」が結婚の条件の一つだった晶子は夫のことをその点では尊敬していた。運転のセンスがないことを自覚している自分には持っていないものを持っているのだから――。

 ただ、やっぱり彼を助手席に乗せると緊張する。何を言われるか分からないし、自分的にはちゃんと出来ていることを指摘されればやっぱり苛立ちもする。特にバスの無くなったこの時間、一杯引っ掛けて帰ってきた夫を助手席に乗せると何を言われるか……。晶子の手は寒くなってきたにもかかわらず、ほんのり汗をかいていた――。