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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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星よりも儚い 神末家綺談1

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長い石段を降りた先に、伊吹と朋尋の小さな背中を見つける。ほら見たことか。

「よい子は寝る時間なンですけどー」

瑞が声をかけると、二人の小学生は飛び上がって驚いた。ばれないように出てきたつもりだろうが、そこはまだまだ子どもらしい隙がある。見た目以上に老獪な自分を、侮ってもらっちゃ困る。

「瑞、」

気まずそうに振り返る伊吹の表情が、星月夜の下にはっきりと見えた。真面目で堅物の片鱗をこの年から見せているくせに、伊吹は案外とこういう幼いことが好きなのだ。

「何をしているのかなー?」
「うう・・・」
「朋尋、うちの伊吹を不良の道に引き込むンじゃない」
「イテッ、げんこつ反対!」
「さて穂積に報告してと・・・」
「い、言うから待って!じいちゃんには内緒にして・・・」

ほほう、と瑞はにやける。俯いている伊吹の表情には羞恥にも似た悔しさがにじんでいる。

伊吹は、瑞に心を許していない。この自分の存在を疑い、恐れ、疎んじている。それゆえに主導権を握られることを、彼のプライドが許さないらしいのだ。瑞にとっては伊吹のそんな態度も、気に留めるほどもないのだが。

兄弟でもない。家族でもない。この自分の存在は、伊吹には不気味なのだろう。瑞は、伊吹が生まれたときからずっとそばにいるが、伊吹が心を開くことはない。

それはひとえに、瑞もまたこの幼い伊吹に自分のすべてを晒す気がないからなのだが。

「奥沢に、蛍を見に行こうと思って・・・」

蛍ゥ、と瑞は眉根を寄せる。

「蛍なら、この前みんなと行っただろう。穂積と、佐里(さり)と」
「あのときはじいちゃんもばあちゃんもいた。子どもだけで、行ってみたいなって・・・」

度胸試しというわけだ。小学生が考えそうなことである。そのスリルと、真夜中に大人の目を盗んででかけるという高揚感が楽しいのだろう。

「ふうん・・・」

その好奇心は仕方ないと思う。小学生とはそういうものなのだとわかるし。

だけど。

「わかってないねえ、穂積の跡継ぎよ」

瑞は伊吹と視線を合わせ、わざと小ばかにしたように笑ってみせる。

「おまえは何もわかっていない。あの穂積の跡目を継ごうというものが」
「わかってないって・・・何をだよ」

かっとなるのを抑えながら、伊吹が聞き返してくる。まったく呆れたものだと瑞は思う。
穂積が一体何と対峙し、どんなものを見ているのか、この子どもは知らないのだ。

「恐怖をだよ」

「お前は夜の闇を知らない。幾多の境界が曖昧になるこの季節の恐ろしさを知らないんだ。こちらとあちら、この世とあの世、ヒトとそうでないもの」

伊吹の表情がこわばっている。

「おいで。奥沢へ行くのならば、蛍よりも面白いものが見られるだろうよ」

伊吹から身体を離して瑞は言った。先に立って歩き出す。

小さな足音が、戸惑いながらもついてくる。

神末伊吹。

まだ幼く、何の力も持たない未来の神の花婿が。