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ミステリー短編集  百目鬼 学( どうめき がく )

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 このTV報道を観ていた刑事の百目鬼学、事件性があるかどうかを調べろと上司から命令を受けていた。早速、「現場に行くぞ!」と部下の芹凛こと芹川凛子刑事に声を掛けた。
「何か変ですよね」と返す間もなく、百目鬼の姿が消えた。芹凛は必死で追い掛け、現場へと入った。

 まず最初に管理人に面会する。
「なぜ簡単に、ロックを壊せたのですか?」
 この質問に、「チェーンを填め込む台座がちょっと緩んでたようですなあ」と、返事はまるで他人事。

 それでも「ほう」と頷いた百目鬼、あとはさっさとドアを開け、玄関に近い洗面室をチェックする。それからリビングを通って、手を合わせ奥の寝室へと。
「ここはいいから、他を調べてくれ」
 早速指示を受けた芹凛、より感受性を高めるためか眼鏡の縁を一度持ち上げて、寝室から出て行った。

 しばらくの時が経ち、芹凛は耳を赤くし、「リビングの隅にある花瓶の花、びっくりですよ」と、興奮気味。されども百目鬼は芹凛の高ぶりがわからない。それでも指差す方を確認すると、それは青薔薇。
 うーん、はてな?
 腕を組む百目鬼に、やっぱりオッサンね、と芹凛は言いたげな表情で、「神馬が飾ってる青薔薇、まだこの世にはそう出回っていないです。とにかく花言葉は『夢叶う』なんですよ」と話す。

 この助言にピンときた百目鬼、「神馬は主演になる夢を叶えたい、その奇跡を願ってたようだな。つまり脳内思考はあくまでもポジティブで、自殺する理由はないってことか?」と芹凛を窺うと、自信たっぷりに「アッタリー!」と答える。これに百目鬼は眼光鋭く、百戦錬磨の質問を浴びせる。「女房の桜子に他に男がいるのか?」と。
 芹凛は署内一の芸能通だ。ここは職を忘れ、ニコリと笑い、「奥川有樹(おくかわゆうき)です。この俳優も主演候補ですよ」と報告する。

 これで百目鬼は一瞬にして事件の全貌を読み取ってしまう。そして芹凛に、お前の推理を言ってみろと目で催促すると、芹凛にも女刑事の意地がある。あとは辻褄が合うように自分の仮説を披露する。