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魔王様には蒼いリボンをつけて ーEpisode1ー

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「おや、悪魔の城の攻略に失敗なさったんだね」

 声が聞こえる。
 勇者が薄目を開くと、木漏れ日の中で自分を見下ろしている中年男が視界に入った。肩から薪が無造作に詰められた籠を背負っている。木こりだろう。
 きっと此処で敗退した冒険者に話しかける役割を担っているに違いない。


 身を起こすと、同じようにぼんやりとあたりを見回しているカリンの姿があった。
 が、他の仲間は誰もいない。

「あれ? みんなは……」
「他のおネェちゃんたちなら10分くらい前に町に下りて行ったよ。俺のものとかいつの間にそうなったんだよテメェの脳内超キメェ、って言ってたなぁ」

 なんと言うことだ。
 女たちはあっさりと俺を見限ったということか!? 長い付き合いだったのに薄情すぎないか!?

「ま、次は頑張んな」

 木こりはそう言ってバシバシと勇者の肩を叩く。
 怪力だ。この力、熊王カイザーベアーに匹敵する。彼が仲間だったなら、もしかしたら勝てたかもしれない。
 そうだ。次はもっと強い防具を買って、回復薬も大量に持って。仲間もおネェちゃんじゃなくって剣士や魔法使いのような定番を揃えて。武器も……。

「そうだ! 武器は! 俺の聖剣ジーザスフリードは!?」
「……ここ」

 カリンがのろのろと剣を拾い上げる。彼女のMAP帳も無事らしい。


『そんな心配しなくたって、後でちゃあんと返してあげるっすから』


 耳の奥でそんなガサガサしたダミ声がよみがえった。
 そうだ。俺たちは負けたのだ。悪魔の城に。魔王に。
 そして命も取られないまま武器も揃えて返されて。

 それって。



「ねぇ、これからどうするの?」
「そ、そうだな。これからは」

 ざっくりと魔王を倒して王から褒美を貰って、そんな俺にカリンが惚れ直すという人生設計だったのに。
 いや、リドをはじめとする他の女たちが去っても彼女だけは残っていた、ということは少しは脈があると思っていいってことじゃないのか!?
 この長旅で彼女の中に俺に対する恋心が芽生えてもなんらおかしくはない。そうだ。他の女とは違う。カリンは俺の幼馴染みだったわけで。幼馴染みとゴールインするカップルは結構な確率でいるわけで。

「カリ、」
「やあ、そこのお嬢さん。良かったら僕たちと冒険の旅に出ないかい?」

 なんてタイミングだろう。
 こんなひとけのないド田舎の山道を、光り輝く鎧に身を包んだ冒険者の一行が通りかかるなど、どう考えたってあり得ない。
 しかもその冒険者は無駄にイケメンで、さらに|何故《なぜ》か白馬に乗っていて。
 話しかけて来た先頭の剣士の襟元を飾っているのはマエストロランクの認定バッヂ。それも8個。この地方だけではなく、世界中に散らばる冒険者組合に登録して、それぞれからマエストロランクと認められた証だ。
 ちなみにマエストロランクとはマスターランクのすぐ下。俺も1個だけはバッヂを持っている。

「ちょうど召喚されたばかりでこの世界には疎いんだ。そのMAP帳からするにマッパーだね? 優秀なマッパーがいてくれると助かるんだが」
「そんなァ、優秀だなんてェ」

 カリンは俺の前では1度も見せたことのないようなくねくねした動きを見せる。
 声も裏返っている。どうした? 腹でも壊したのか?

「カ、」
「じゃ、あたしも行くわ。じゃあねー!」

 腹痛を心配されているとは露知らず、彼女は剣士の馬にひらりと乗ると、笑い声と共に走り去って行ってしまった。



「カリ、ン……?」

 後に残されたのはかつて勇者と呼ばれたこともある男ただひとり。
 と、木こり。

「あれって今はやりのニートだったんだけど云々っていう勇者だよな。やっぱ意味不明に女にモテるって噂は本当だったんだな」

 で、ニートってなんだ? と木こりのオッサンに聞かれたが俺だって知らない。
 そういう職業じゃないのか?
 もしかしてそのニートとやらになってから勇者を目指さなかったから負けたのか?
 ニートじゃなかったからカリンも女たちも去ってしまったのか?

「ま、気ぃ落とすな。女は他にもいるからよ」
「はあ」

 木こりはまたしても肩をバシバシと叩いてくる。
 いい加減、肩が脱臼しそうだ。このまま叩かれ続けていれば剣士生命どころか村に帰って鍬(くわ)を持つのも危うい。

「で、魔王ってどんなだったんだ? やっぱデケェのか? なーんか誰に聞いても覚えてねぇって、」

 木こりのオッサンは興味深々に聞いてくる。
 そうやって尋ねるのもセリフのうちなのか、ただ単にオッサンの個人的興味なのかは知らない。


 俺は魔王を見た。
 見た。けれど。


 ザザ。

 波の音がする。
 あの波に全て流されてしまった。この城に入ってから、出るまでの記憶を。


「……思い……だせねぇ……」
「兄ちゃんもかよ!」





 勇者はそびえ立つ城を見上げた。

「負けた、んだよな」

 負けた。
 だが城の中がどうなっていた、とか敵の数は、とか、まして魔王の顔なんて全く記憶に残っていない。
 ただ、これだけは言える。どうしてだかはわからないけれど心が叫べと言っている。
 
「俺、イケメンは嫌いだ!」

 山道に、ただ勇者の叫びだけがいつまでもこだました。