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魔王様には蒼いリボンをつけて ーEpisode1ー

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【地下室のネズミ】



 とあるひとりの勇者が山道で叫んでいる頃。



「る〜う〜〜」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」

 ノイシュタイン城の朝はメイドの悲鳴で始まっていた。
 犠牲者の後ろから羽交い締めさながらに抱きついているのはこの城の主。
 兼、ルチナリスの義兄(あに)。

「ななな、なんですか?」

 ぎこちなく振り返れば、広がっているのは春の陽光のような笑顔。ではあるけれど。
 いかんせん登場の仕方が悪い。
 なぜ気配を消す必要がある! なぜ抱きついてくる必要がある!!

「え? るぅがいたから」

 しかし義兄には通じない。
 素晴らしい理由です。お兄様。

「昔は青藍様〜って抱きついて来てくれたのになぁ」
「いつの話ですかっ!!」

 心臓がバクバク言うのを必死に抑えながらも、ルチナリスはつとめて平静を保つ。
 しかし嫌がってるのを知ってか知らないでか、義兄のほうはぎゅうっと腕に力を込め、髪に頬まで寄せてくる。

 知らない人から見たら一見、恋人同士に見えるかもしれない。
 だが。

 一応ふたりの関係はご主人様としがないメイド。別の見方をすれば義兄(あに)と義妹(いもうと) 。
 そりゃそう言うシチュエーションも世の中にはあるかもしれないが、残念ながらまだその域には達してない。
 それに……まぁ多分、彼のほうはそんな気持ちは微塵もないだろう。
 そう。彼の頭の中では、あくまでルチナリスは「義妹」と認識されている。

 血のつながった妹相手でも犯罪スレスレな気がするが、挨拶代わりに抱擁してしまう貴族様の間ならもしかしたらこれは普通なのかもしれない。
 庶民派のあたしには理解できない世界だけど。ルチナリスはぐりぐりと抱きつかれたまま、何度も呟いたセリフを心の中で繰り返す。

 そんな義妹の態度に義兄はふっと顔を曇らせた。

「……るぅちゃんはお兄ちゃんのことが嫌いなんだ」
「うっ」

 何の運命のいたずらか、たったひとりきりの兄と妹を演じ続けてはや10年。この「お兄ちゃん」にかわいがられてきた義妹としては、全く悪気がないのがわかっているだけに今更邪険にも扱えない。

「俺のこと嫌い?」

 扱えないが扱いたい。
 扱いたい。
 扱い……だから! 耳元で囁くのやめて下さい!
 この人絶対面白がってやってる!!

 はたから見れば羨ましいと思われるかもしれないが当事者はそうじゃない。
 だってあたしは義妹。義妹なのよお兄ちゃん! 血すらつながってないのにこれは問題大ありだってことを理解して!

 ルチナリスは箒を握りしめた。