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魔王様には蒼いリボンをつけて ーEpisode1ー

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「あー、よくいるんすよねぇ。実力のなさを他人のせいにする奴〜〜」

 頭の上から降ってきた声に、勇者は視線だけを向ける。
 城に入る時に正門にずらりと並んでいた石像と同じ姿形をした異形の化け物が、剣を抱えたまま自分を覗き込んでいる。

「ああ! それは俺の!」

 なんと言うことだ。
 化け物が手にしているのは聖剣ジーザスフリード。
 冒険者になりたての頃、ビギナーランクの「夏休み中の学校花壇の水やり」というくっそつまらない依頼を何度もこなして貯めた金で買った俺の愛剣ではないか!
 武器屋からは「まず先に装備品を揃えたほうがよくないですか?」なんて嫌味を言われ、低レベル冒険者時代に何度も「その剣売ってご飯代にしようよ」という女どもの誘惑から守り切った命より大事な……。

「刃を研ぐのは専門家に頼んだほうがいいっすよ。すっげぇピカピカに磨いてあるけど、こんな切れ味じゃマグロの刺身作ったって主婦の包丁に軍配が上がるって」
「そんなことはどうでもいい! 返せ!」
「はいはい。威勢だけはいいっすねぇ」

 化け物は剣を抱えたまま、次々と床に散らばっている俺たちの武器を拾い上げていく。


「それはあたしのMAP!」

 違うところから仲間の悲鳴が上がった。
 あれはマッパーのカリンの声。俺が冒険者になる時に無理に頼んで仲間になってもらった幼馴染みの声だ。

 心密かにカリンに惚れていた俺は、彼女が就職先を迷っていると聞いて冒険に誘った。
 長い旅路で仲間の男女がいい仲になるのはよくあること。武器も魔法も使えない彼女ははっきり言って連れて行くだけ無駄なのだが、俺の目的は彼女のマッピング能力なんかじゃないからどうでもよかった。

 彼女も旅をしていれば将来有望そうな勇者に出会えるかもしれない、という思惑があったから誘いに乗ったらしいと聞かされたのはほんの数日前。料理人のリドが教えてくれた。
 そのリドもどこかに転がっているのだろう。料理の腕は中の上だが美乳だった。彼女謹製のおっぱいパンの出来と言ったら、女どもが目の前にいなければ頬ずりしてパフパフしてしまいたいくらいに柔らかくて……いや、それもどうでもいい。

「待て! カリンに手を出すな! カリンだけじゃない、この女たちはみんな……」

 俺は残った力を振り絞って立ち上がる。
 女たちはきっと今頃、俺を羨望の眼差しで見上げていることだろう。
 ピンチから「何処にそんな力が!」なんて謎パワーで立ち上がり、敵を完膚(かんぷ)なきまで叩き潰すのはヒーローもののセオリー。だったら最初っからその謎パワーを使えよ、と俺も村人時代には思っていたが、今ならわかる。
 女は、ピンチから助けだされるのに弱いのだ。
 自分を命がけで守ってもらたいものなのだ。
 だから世の勇者は1度はピンチに陥ると相場が決まっているのだ!

「みんな! 俺のもんだ!!」

 くらえ! 俺の必殺……と手を握りかけて、手ぶらであることに気づく。
 そうだ。聖剣ジーザスフリードは敵の手に落ちていた。
 ならば、ならば、素手でもいい。主人公パワーでその辺はどうとでもなる! はず!


 べしゃり。

 その数秒後、勇者は床に平伏していた。
 畜生! 床が磁石だったってことを忘れていた! なんて卑怯な! この床がただの床なら今頃俺はカッコよく立ち上がって……っ!

「銀は磁石にくっつかないっすよ?」

 頭上から、またしてもあの異形のものであるらしい声が降る。

「そんな心配しなくたって、後でちゃあんと返してあげるっすから」

 同情か?
 敵に情けをかけられるなど勇者の俺のプライドががががが。


「……煩い」


 化け物とは違う別の声が響いた。
 しん、と静まり返る。
 その中を、コツ、コツ、と誰かが近づいてくる。

 勇者は顔を上げた。
 自分を冷ややかな眼差しで見下ろしているのは、戦闘の初っ端から火の雨を降らせてきた黒衣の魔王、その人だった。