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魔王様には蒼いリボンをつけて ーEpisode1ー

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【そして勇者は頂点を目指す 】



 勇者は山の中腹にそびえ立つ古城を見上げていた。
 鬱蒼と茂る木々のさらに向こうだというのに、その存在感と威圧感は半端ない。
 いや、これはきっと自分の心の持ちように拠るところが大きいのだろう。なんせあの城は「悪魔の城」。全人類の敵・悪魔の親玉――つまり魔王が住んでいる。

 それを知ったのは初めて冒険者として登録した冒険者組合のおネェさんからだった。
 いかにも異世界RPGチックな、上半身は乳を隠しているだけの「それで外歩くのかよ。腹出してたら冷えるぞ」とツッコミを入れたくなるような衣装のおネェさん。はっきり言って受付事務の格好じゃない。
 乳を隠している布のサイズが小さいのはおっぱいを大きく見せるためなのか……いや、乳は大きさじゃない。揉んだ時の感度と触り心地が、と初対面ながら自論を熱く語ってしまいたくなるのを我慢したのは我ながら紳士と言えるだろう。

 ああ、受付嬢のおっぱいの話は置いといて。
 その組合の壁一面に貼られていた難易度別冒険MAPの最上段「マスターランク」に貼られていたのがこの「悪魔の城」だ。
 ラスボスである魔王の居城。未だに制覇した冒険者はいない。


 その城に挑戦する冒険者は総じて「勇者」と呼ばれるらしい。
 勇者、素晴らしい響きじゃないか。いかにも世界を救う救世主といった感じで。

 昨今は別世界から召喚され、あれよあれよとおだてあげられて勇者の道を歩むという、成り立ちがどうにも後ろ向きな勇者が多いらしいが自分は違う。
 村人Aから身体を鍛え、何処ぞから召喚されて来た「モブ気質で引き籠りニートだったんだけど何故か召喚されてからは女の子にモテモテで、どうしてだか知らないけれど剣も魔法も最強」な自称勇者どもを実力でねじ伏せ、王の謁見をもぎ取った。

 旅の途中で料理人とマッパーと剣士と狙撃手、それに医師と大工と学者という一見烏合の衆にしか見えない仲間も集めた。何故このメンツがいいのか知らないが、最強を目指すには必要であるらしい。
 その全てをピチピチのおネェちゃんで揃えたのはただ単に趣味だが、召喚されて来た「ニートのくせに最強」な自称勇者どもはひとり残らずおネェちゃんで固めていたから今の流行りなのだろう。女どもとは今のところは仕事の話しかしていないが、いつかは打ち解けて恋心を抱いてくれるに違いない。
 なんせ「ニート(以下略)」な連中がモテまくっていたのだ。それより強い俺がモテないはずがない!

 いざ! 故郷に錦(にしき)を飾るため! 勇者の頂点に俺はなる!
 勇者は鼻息も荒く、悪魔の城を見上げた。





「去れ」

 それなのに。
 勇者は床に突っ伏している。体勢からいって炎天下のカエルみたいなガニ股で倒れているようだが、カッコよく倒れ直す気力も体力も残ってはいない。
 鎧が重い。ラスボス用に、と先程奮発して買ったミスリル銀のフルアーマーは今やその重みで床に貼りついている。

 何故だ。買った時はこんなに重くなかったのに。
 ああ、そうだ。きっと床全体が磁石でできているからに違いない。だって金属だから。金属は磁石にくっつくものだから。
 畜生! ラスボスのくせにこんな小細工を! 正々堂々と戦えば負けるからって……。

 この鎧を勧めてきた防具屋はこのことを知らなかったのだろうか。
 いや、城下町で何十年も営んでいれば近場ダンジョンの攻略方法など知っているのが当たり前だ。
 自分も村人時代には「あの洞窟は途中で水没するから水中装備を持って行ったほうがいいですよ」というセリフを伝える担当だった。

 それじゃなにか? あの防具屋は悪魔の手先だったのか?
 いや、防具屋だけじゃない。武器屋も小間物屋も宿屋も、だいたい悪魔の城の目と鼻の先に住んでいるというのに何も被害がないはずがない。

「俺は……騙されたのか」

 町の住人などNPCだと思って油断した。主人公に益になる情報を教え、金やアイテムを無償で提供してくれて、場合によっては仲間になる便利な連中だと思いこんでいたのが仇になった。