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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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エピローグ1

 


「きっと東条さん驚くわよね」
 美奈は可笑しくてたまらない様子だ
「先輩の事だから、『おう。やっぱこれだよな』とか平静を装うだろ」
 颯太もいたずらっぽく笑っていた。

 颯太と美奈は海人に内緒であるものを用意していた。風の影響か、今日は珍しく雲の間から夕日が顔を覗かせている。
 ここは道後温泉に向かう時によく人々が待ち合わせする広場だ。中央の噴水は、夏には涼し気に水を吹き上げるのだろう。潮の香りが、目の前の砂浜から漂って来ている。
 昨夜颯太から俺に電話があり、この場所で待つように言われた。
 俺は待ち合わせの時間きっかりに広場に着いた。もう少ししたら愛里も到着するはずだ。
「せんぱーい! お待たせしました! これは僕と美奈からのプレゼントです」
 満面の笑みを浮かべた颯太が噴水の裏側から叫んだ。
 俺は……目を見張った。
 颯太と美奈に手綱を取られて登場したのは、なんと! 白い馬ではないか。
「お、おう。タクシーで行こうと思ったけど、こっちの方が断然ロマンティックだよな」
 動揺を悟られないように切り返す。
 この戦争が始まる前までは、愛里と毎週乗馬クラブに行っていた。女性の気性を当てるのはヘタだが、馬なら一目見ればどんな気性の馬か分かる。この白馬はかなりの優等生だ。
「ところで、どうしたんだこの馬。かなりいい馬だぞ」
 さっそく鞍に跨ると、ドヤ顔をした颯太たちに聞いてみた。
「冷凍装置で眠ってたんですよ。眠っているより牧場に移した方がこの馬も喜ぶと思って。もちろん今回は太田さんの許可もとってあります」
 まだ得意げな顔で鼻の穴を膨らませている。
 辺りには人も少なく、今はこの広場に俺たち三人だけだ。海から吹く夕方の潮風が頬に心地いい。
「よっ! お待たせ」
 いつの間にか、髪の毛をポニーテールにした愛里が、白いワンピースの裾を風になびかせて立っていた。左手の薬指には俺とおそろいの金の指輪が光っている。
 ふと気づくと、気を利かせたのか、いつの間にか颯太たちはそっと姿を消していた。

 俺と白馬にトコトコと近づくと、彼女はふふっと一瞬笑ったように見えた。
 ん? これは……どこかで経験したようなシチュエーションだ。デジャブか? だが一体どこで?
 そっと馬の首に手を当て、愛里は馬上の俺をじーっと見上げた。
「こんにちは! 友達とはぐれちゃったんだ。悪いけど次の街まで乗せてってくれない?」
 イタズラっぽい顔をして、まっすぐに俺の眼をみつめる。
 そうか。そうだったな。
「いいですよ。俺はカイト。君は?」
「僕はヨッシー! よろしくね」
 彼女の白い手を握り、ふわりと一呼吸で鞍の後ろに乗せてやる。
「じゃーん! 今回は早めに種明かししちゃうけど、ほんとは愛里って名前で女性なの。ふふ。もうすぐあなたのお嫁さんになるんだよ。ゲームの時と違って、ここに一人増えちゃってるけどね」
 はにかみながらお腹に手を当てた。その顔には既に母性が宿り、眩しい程に輝いている。
「あのね海人。こないだ話してくれた、ひなたさんたちとのこと。正直に言ったから許してあげる。その代り、もし彼女たちが育てられなくなったら、私がぜーんぶ引き取って育てちゃうから」
「ごめんな――愛里」
 強制されていたとはいえ、過ちは過ちだ。あれから俺は全てを正直に話し、心から詫びた。ひなたの話をした時に愛里は号泣したが、それは太一に対しての怒りだと彼女は説明した。
 だが……本当の所はどうだったのか。女心というのは俺にはまだまだ難しく、理解できない。
「よし、行こっ! 女将さんが首を長くして待ってるよ」
 ぽんっと肩を優しく叩かれ手綱をとると、俺は目的地に馬首を向けゆっくりと馬を歩かせる。
 ゆっくり、そう……ゆっくりだ。
 激動のこの数か月を思い出しているのか、どちらも一言もしゃべらない。
 白馬にまたがった二人の横顔が夕日に照らされ、砂浜に砂漠のようなシルエットを投げかけている。このペースなら十五分もすれば着くだろう。
 かっぽ かっぽ かっぽ
 リズミカルに白馬の足音が響く。しばらくして愛里が思い出したようにそっとつぶやいた。 
「あの時ね、はぐれちゃった友達って……颯太だったのよ。そのおかげであなたとこうして巡り会えたの」
 愛おしそうにぐりぐりと背中に顔をうずめてきた。

「また乗せてくれて、ありがとう」